8 / 205
君の園 待つ 5
幸成さんを初めて見掛けたのは、一年ほど前の営業帰り。
普段通らない道を歩いていた時だった。
―――!
ほころぶそれに目を奪われて…店兼工房のガラス戸から覗き込んだ先に幸成さんが座っていた。
険しい顔で、背中を丸めて作業をする中年男のどこが気になったのか…なんて、今でも分からないけれど。
「ちょっと不器用な人でさ」
あれを作ったのがこの人だと知った時、素直に尊敬できた。
「ふぅん?」
「じゃ、また。お疲れ!」
気になって、
話しかけて、
最初は気難しい職人気質な人なんだと思っていたけれど、それは実はただの人見知りで…
近づいて、
触れて、
あんなにも細かい作業が出来るのに、実はお茶ひとつまともに淹れられない不器用な人だと知って…
押し掛けて、
傍に、いたくて…
作業に没頭すると食事も取らなくなるなんて、子供っぽいところも満更じゃなくて…
「さむ…」
ぼんやりと、まだ咲かない桜を見上げた。
「たーだいま」
声をかけるが返事がないのは常だ。
集中すると本当に周りをシャットアウトしちゃうんだから…
台所を覗くと、用意していった夕飯がそのまま寂しげに机に乗っていた。
「まーたか」
わざとドスドスと音を立てて工房を覗く。
ともだちにシェアしよう!