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芽吹きの季節だ。
新学年に上がってどきどきしてクラスに入ったら、見た事のない奴がいた。
田舎の、そう人数が多くないここでは、学年全員の顔と名前が一致する。
「なぁ、あれ、だれ?転入生?」
去年からの腐れ縁なクラスメイトに尋ねると、不思議そうな顔をしながら「前も同じクラスだった相加だろ?」と返されえた。
人数が少ない上に同じクラスだったのならば見覚えがないなんてことはあるはずがないのに…
その黒髪のかかる綺麗な横顔はやっぱり知らない顔だった。
なんて、ちょっと中二っぽい出来事にどきどきしていたのは数時間前の話で、今のオレはその相加から逃げるのに必死だった。
放課後、どうしても気になったオレは写真部の奴に頼んで部室に入れてもらい、相加の写真を探し回った。
万が一に、本当にオレがあいつを知らないだけなのかもしれない、でももしかしたら…なんて、非日常の世界を覗いた興奮で夢中になって写真を漁っていた。
…
うん、やっぱりない。
体育祭で撮ったクラス写真にも、
文化祭で撮ったクラス写真にも、
その他のこまごまとした写真を見ても相加はどこにもいなかった。
「マジか?」
ドキドキと胸が高鳴った時、
「―――――写真見つかった?」
跳ねた心臓が口から出るとはこのことなのかもしれない。
黒い学ランに、漆黒の髪のせいか、相加はまるで悪の手先のように見える。
「えええっあっあれ…あいつは!?」
「用事があるって帰ったよ?鍵の事があるから、俺が代わったんだ」
チャリンと手の中の鍵を鳴らして見せる相加に曖昧に笑い返した。
普通のクラスメイトのように話しかけては来るが、オレは初めて喋る緊張感に、喉が干上がる感触がしていた。
そう、初めてだ。
こんな綺麗な顔立ちの奴がいたら覚えているだろうし、本能的な何かが警鐘を鳴らすような相手ならまず忘れない。
「あの、オレ、か 鍵返しておくから」
「駄目駄目!部外者に預けたなんて言ったら怒られちゃうよ」
「え…あ、…」
もう少し調べたかったけれど、本人を目の前にしては探しにくい。
「じゃあ…帰る」
「そう?いいよ、探してて」
「い、や、 あの、も いい」
手に持っていたアルバムを乱雑に積み上げて片付けようとした時に、後ろから伸びた相加の手がそれを押えた。
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