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「ぁぁ──ぁっ?」 「んぁ?建太郎がどうした?」  懸命に布団にくるまった建太郎を指差すクロを、獣医が困った顔で見下ろす 「っ……──!?」 「あー…?いや、あいつも大丈夫だ。飯をちゃんと食わせとけば治るよ」  飯の言葉に反応し、クロは獣医の腕を掴んで縁側から庭へと引っ張っていく  下駄を慌てて履いた獣医は、地面にしゃがみこんでぱったんぱったんと長い尻尾を揺らすクロの視線の先を見やった  半乾きの鮒が一匹、土と蟻にまみれて転がっている 「どうした?」  指差し、項垂れる  黒い耳がぺたりと力なく伏せられた 「ん?建太郎に食わせたかったのか?」  耳の寝てしまったクロの頭を獣医が撫でる  武骨な手だったが、撫でる動作はこれ以上ない程に優しくて丁寧で、クロは目を閉じて喉を鳴らす 「あははは、お前は素直でいいなぁ…シロにも見習うように言ってくれぃ」 「?」  首を傾げるクロの耳の後ろを掻きながら、獣医は座敷の布団の塊を顎でしゃくる 「添い寝でもしてやりゃ一発で治らぁ」 「??」 「ハグだハグ。ハグしながら寝てやれ」  抱き締める動作と寝る動作を交互にクロに見せ、建太郎を指差す 「──!」  満月色の瞳が見開かれ、尻尾がぴんっ…と伸びる  そしてにっこりと獣医に笑いかけると、クロは建太郎の寝ている布団めがけて飛び込んでいく 「!っ───っ」 「うわっ!?は?な、何?…ぅぐえっ!?くる…くるし……」 「─!──っ」  自分の所にまで届いてくる二人のじゃれ合う声に、獣医がふっと笑う 「風邪薬、もうちぃっと買っとくかぁ」  そうぼやきながら庭を出ようとして、長くのびた猫じゃらしに気が付く  ぷち…と一本手折り、動物病院兼自宅で待っているシロへの土産にする  クロと違い、目を合わせなければ近寄りもしなかったが、留守にすると窓辺で帰りを待ちわびているのを獣医は知っていた 「…あれだな、なんだ?ああ、ツンとか言うヤツか」  うん、うん、と一人納得しながらからりと下駄を鳴らして家路を急ぐ  名前を呼んでも振り向きもせずに無視を決め込む彼だが、実は尻尾がぱたんと小さく振られている事にも気づいている 「いつになったら、なついてくれるのかねぇ」  そんな獣医の呟きは、誰にも聞かれないままに風に紛れて消えていった END.

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