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「そ…それは……どう言う…」  招かれた豪奢な館の主人が狼狽えたように呻く。  主人とは言え彼は婿養子で、実質この屋敷にいる…いや、いたのは女主人だ。  彼の後ろの暖炉の上、そこに鎮座する肖像画はやや痩せすぎな感はあるものの美しい女性の肖像画で、この屋敷の本当の主人だった人が描かれている。  画家の腕がかなり良かったんだろう。  実際の彼女はこの絵から受ける従順さもおしとやかさも兼ね備えていない女性だったが…  この屋敷を立てる時も、傾倒している「オペラ座の怪人」に出てくるオペラ座のような豪華な屋敷にしたいと言い出して周りを酷く困らせたと聞く。  もっとも、その彼女は今回の事件の第一の被害者で、今もその死体の沈められた池を警察が捜索中だ。  その混乱に乗じるように、もう一人が殺害されたのが昨夜だった。 「貴方の愛人である…」      そう朗々とした声が言うと、屋敷の主人の顔が曇る。  公の秘密で、愛人自身もそれを隠そうとしていなかったのに今更だと思うが、犯人が分かりました…と要さんが告げたこの多人数のいる場面で堂々と告げられるのはごめんらしい。 「失敬、貴方と深い親交のある彼女が殺害されたのが…」  言い直した方が、逆に含むものが増えたようで厭味ったらしいと、要さんは気づいているのか…  普段から皮肉な口調から考えると、答えは出る。 「窓、扉、共に鍵のかかった密室だと言うのは理解しているかね」 「だからっそれが…「その密室の話の前に、一つの話が必要そうだ」  手品師のような手つきで取り出されたのは二つの携帯電話。

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