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 たくし上げた服の裾から春風にしては冷たい空気がひゅっと入ったせいで思わず体が跳ねた。 「さむっ」 「動くなや」  服を持っているせいで見えないが、師匠の顔は不機嫌なのかもしれない。  すみませぇんと謝りながら、恐る恐る覗き込んでみたら…… 「……」  普段ではあり得ない笑い方の師匠がオレの膝の上で唇を舐めていた。 「酒が目に入るやろ」  不機嫌そうに言うも、いつも機嫌悪そうに細められているだけの紫の目は柔らかい感じに虹の形だ。  初めてかもしれないくらい珍しいことにオレの頭はくらくらと回った。  それでなくとも、目の前を行き過ぎる花びらの群れのおかげで夢の中にいるような、現実じゃない感じに戸惑っているのに……  この季節らしい行事ごとに、ちょっとどころじゃなく浮かれちゃったのはオレだけじゃないのかな?  こんなに綺麗だと師匠の用意した重箱の中からオトナのオモチャ一式が転がり出てきた衝撃なんて、どーでもよくなってくるよね!  花に視界が霞んで、すべてがぼんやりと夢の中みたいだ。 「……ししょぉ~股が寒いです」  暖かくなってきたとは言え冬と比べたら……だ。  風が吹けば寒いし、露出するには季節が早すぎる。 「そらマルっと出とるからなぁ」  自分たちが陣取った木陰の主を見上げる。  周りにある他の桜も見事だったけれどこの木は群を抜いていて、幾年月も季節を通り過ぎてきたんだろうなって思わせる幹は貫禄の一言に尽きる。 「まぁ俺は暖かいけどな」  あっさりそう返してぺろりとまた一口酒をすする。  酒を飲んでる人間は確かに体は温まるのかもしれないけれど、下半身を露出させて盃代わりになってる人間にしてみたら、アルコールのせいで足が冷えてただただ寒い!  ぴったりと合わせた足の間に酒を注ぐ、このプレイってなんて言うんだっけ?わかめ酒?でもオレにはわかめないから……?なんて言えばいい?  酒に気を付けながら頭を膝の上に置き、無防備に横になる師匠は本当にいつもと雰囲気が違っていて、変わった師匠が見れたってことよりは戸惑いの方が大きいかも。

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