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 どっと目の前の生徒が廊下へと沈み込んだ。  追い打ちを掛けようとして足を振り上げた瞬間、鋭い制止の声がしてオレ『兵藤一宏(ひょうどうかずひろ)』はその足を下ろさざるを得なかった。 「そこまでだ」  静かな、それでいて有無を言わせない声に唇をひん曲げると、オレを素通りして『中司壱杜(なかつかさいちと)』は廊下に殴り倒された奴に手を伸ばした。  恐縮しながらその手に掴まって立ち上がろうとするのが面白くなくて、オレは体を支えていた生徒の手を足で払った。 「うわっ」 「兵藤っ!」  鋭くオレの名を呼んで窘めようとする声を耳を塞いで聞こえぬふりをする。  やや子供じみた行為だな…とは思ったものの、こいつにはこれくらい幼稚な方がいっそ嫌がらせになっていい。  いつもお高く止まって…上から目線なのが気にくわねぇ… 「一般生徒にまで手を出すなんて、この学校のトップの名前が泣くぞ?弱い者苛めしかできないのかってな」 「んだと?」  低い声を出して威嚇するが、風紀委員長である奴はしゃんと立って怯む様子なんて微塵も見せない。  凛とした立ち振る舞い、端整だが男っぽい顔立ち。  風紀の規律が服を着て歩いているような隙のない男だ。 「ごろつきと、そう変わらないんじゃないか?」 「ごろつきはこいつだろ?そこの生徒に因縁つけて、カツアゲしようとしてんだからな?」  オレの言葉に、ノンフレームの眼鏡の奥をピクリと動かす。  奴の感情が動いた事に、満足して思わず笑みが漏れ……ようとしたのを慌てて引き締める。そんな事をした日には、また何かしら文句を言われかねない。 「そうか、それはこちらで話を聞こう」  揺れたと思った奴は、あっさりと感情を隠して再び床に転がる生徒に手を伸ばす。 「っだよ…面白くねぇ…」  伸ばされた手に、生徒が手を伸ばすのが面白くなかった。  だから睨みつけてやる。 「文句があるなら、堂々と言い返したらどうだ?」  溜息と共に生徒を引っ張り起こすと、オレを睨んでくる。  一触即発のその雰囲気に、周りのギャラリーがごくりと喉を鳴らすのが聞こえた。 「……」 「……」  奴と睨み合う。  何度目になるか分からない。

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