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なんだかんだと言いつつ…やっぱりオレの方が体格が良くて…
ヤった後は、「あれ?オレがヤる方だっけ?」て錯覚するくらい、オレがあいつを腕枕して転がる。
あいつはあいつで、オレに頭を預けるのが当然と言わんばかりの態度で寛ぎやがる。
…はっきり言って疲れてるのはオレの方だっ!
「お前、そろそろ戻んねぇと塾かなんかじゃねぇのか?」
黒髪に指を入れて優しく揺すってやると、「ん…」と気のない返事が返る。
「遅刻とか嫌なんだろ?」
「…そう言う一宏は、どうなんだ?」
最中に、用事がある…なんて口走ったな。
「あれは…お前がもたもたするから…」
ふぅ…と鼻で溜息を吐いてぱっと起き上がる。
「…いい加減、お前って言うの止めろよ」
ジャケットを取ろうと伸ばした手を止めてちらりとこっちを見た。
「一宏のことだから、どうせ心の中でも、あいつ、そいつ、こいつって思ってるんだろ」
…図星に、ぐっと喉が鳴った。
「ほら、言わないと次は『こんなこと、面白くなくて当然だ』って言おうかな」
その一言は…オレの
『…面白くねぇ…』
に対する、都合が悪い時の合図。
シないと遠まわしに言われているのと一緒だ。
今さっき離れたばかりなのに、もうその体温が恋しいと思い始めているオレにとっちゃ…ちょっとした大問題で…
「………っ…い…壱杜っ」
こいつの名前を呼んだ事がないわけじゃないが…何度も気さくに呼び捨てできるほど、慣れてはいない。
照れくさい。
照れくさすぎる。
「はい?」
眼鏡についたオレの指紋を拭き取りながら薄く笑う。
「…………なんでも…ねぇよ…」
どきりとする、いつものあの笑顔だ。
うまい具合に言わされて、ムカムカッと来る。
「…ったく、面白くねぇな」
小さく毒づき、イラつきながら煙草を咥えようとしたオレの手からタバコをもぎ取る。
「あっ」
「文句があるなら、堂々と言い返したらどうだ?」
意地悪そうな表情に、いつもの笑みを乗せた唇がオレのと重なる。
「んっ…」
角度を変え、オレの舌を吸い上げてくる。
「…一宏」
しっとりとした唇に軽くついばまれながら、オレは小さく
「おぼえてろよ」
と壱杜に囁いた。
END.
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