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 あれは何度目の時だったか… 「……」  一宏がひどくむくれていた。  もっとも、感情の起伏の激しいのはいつもの事で、情事の後は殊更そう言った傾向が強いように思える。 「どうした?」  声を掛けると、マットの上でごろごろしていた一宏がちらりとこちらを見やってから、腰の方に視線を移動させた。  「別に…」なんて言ってはいるが、その視線と拗ねた態度で大方分かってしまう。 「腰か?」  ひぐっと息を呑む奇妙な声がする。  図星だったらしい。  どうにも…一宏の考えは読みやすすぎる。 「い…痛いわけじゃねぇからなっ疲れただけだからなっホントはサッカーできるくらい元気なんだからなっ」  …どうしてサッカーなのかは知らないが、ああ。動けないくらい腰にダメージを与えてしまったのだと言う事は理解できた。  久しぶりのせいか、ついオレ自身無茶をしすぎた感は否めない。  お互いの取り巻く環境や状況を考えると、校内で不用意に親密な会話ができないのはオレも一宏も分かっているはずで…  二人のこう言った関係が露見しないように逢おうとするのは殊の外骨が折れるし、そのタイミングも得難かった。  お陰で、こうして肌を合わせるのは半月ぶりだった。   「じゃあ、もう一試合、願おうか?」  そう言って投げ出されていた足の太腿に手をやると、また、ひぐっ…と奇妙な声が漏れる。  顔は真っ赤で涙目だ。  視線はおろおろと定まらない。  これがこの学校の不良共をまとめている…と言うのだから、全く持って世の中は不思議だ。  一宏の名前を耳にする度に『鬼の』やら『狂犬の』なんて物騒な枕詞がついてくるが、こんな愛らしい生き物が殴り合いの喧嘩なんかしていると言うのは、想像ができなかった。 「や、…だって…」  ぱくぱく口が動くが、それ以上の拒否の言葉は出てこない。  久しぶりで溜まりに溜まっていたのは…オレだけじゃないらしい。

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