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日食に対する、訳のわからない恐怖を抱えながら過ごし、オレは大きくなった。
あの日まで…
「お世話になりました」
母が頭を下げる傍らで適当に頭を下げているとしっかりお礼を言いなさいと怒られた。
看護婦に見送られ、三角巾で吊るした腕を抱えて家へと帰る道すがら、しみじみと怪我をした腕を見ながら母が溜息を吐く。
「よかったわぁ…事故に遭ったって聞いた時はどうなる事かと思ったけど。もうこんな思いはさせないでよ?」
「させないでよっつったって、衝突事故に巻き込まれたんだから、避けようがないよ」
郊外に住む叔父に連れられて車に乗っている時だった。
何台かの衝突事故だったと聞くが、詳しい事は母が嫌がって教えてはくれなかった。
幸い、オレ自身の怪我は右腕を折ったくらいで、死者が出たらしい事故では軽傷の方だろう。叔父はオレよりも怪我が軽く、打撲程度で済んだ。オレの病室にきて平謝り出来るくらいだから、心配は無用だろう。
「大分、勉強遅れちゃったけど大丈夫?」
「あ?何とかなるよ」
もともと心配する程の頭の良さはない。
今更、受験校のランクがそのままだろうが下がろうが気にはならない。
事故が過去の事になった今、気がかりな事は他にある。
「…小竹祝…」
呟いただけで、体中が総毛立つ。
「なに?なんか言った?」
「…なんでもないよ」
そう返してぎゅっと拳を作って空を見上げる。
焼けるような暑い夏の太陽が、その真円の姿を揺るがすことなくそこに鎮座していた。
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