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「中二!」  バッサリと切り捨てられた。  いや、あの可愛らしかった弟はどこへ行ってしまったのか…  一応、反論しておく。 「いや、オレ、高校せ…」 「厨二っ!!」  さらにバッサリと切り捨てられた…  後をついて回ってきた可愛い弟は本当にどこへ行ってしまったのか…?  ムカついて、ぷう…と頬を膨らませようとしたが、慌ててやめた。これをすると、童顔が余計幼く見えるのは知っている。  近頃急に背が伸びて大人びてきた三つ年下の弟『日野 衛人・ひの えいと』に威厳と言うものを見せるべく、オレ『日野真唯人』は眉間に皺を寄せて、たいして美味くもなんとも思わないコーヒーを口に運んだ。 「ナニ拗ねてんだよ」 「…別に」 「兄貴が変な事言い出すからだろ?ぜってー厨二病だって!」 「…うるさいな。じゃあそれでいいよ」  生意気な口に腹が立って自室のある二階へと駆け上がった。  なんだよ…唯一の兄弟だと思って、オレの悩み…と言うか秘密を教えてやったのにさっ!  階段を登る途中の明かりとりの窓から、眩しい夏の日差しが目を焼いた。 「…」  今朝起こった部分日蝕。  それを思い出して深く息を吐いた。  日蝕…  太陽と地球の間に月が入り込んで起こる現象。  不思議で…そして…  恐ろしい。  コーヒーの入ったマグを勉強机の上に置き、ベッドへと転がった。  幼い頃から見続けてきた天井に変わりはない。  開け放った窓から入る心地良い風に前髪が揺れるのを感じながら、オレは静かに目を閉じた。  日食…  そして、 「『天野祝』」  呟いた言葉にぶるりと体が震えた。  懐かしさに込み上げた涙が眼尻から枕へと痕を作りながら落ちて行くのを感じる。  この感情が、ただの思春期特有の思い込みだと言うのか?  はっきりと思い出せる幼馴染のその面影を求めてきつくきつく目を閉じたけれど、そうすればするほど曖昧になるようだった。  何せ、1800年も前の事だ。  その頃、オレは『小竹祝』と呼ばれていた。  この記憶に気付いたのは物心つく辺り。  オレにとっては、前世の記憶があるのは当然のことで、皆がそうなのだと思っていた。  小学生の頃、夏の特別番組で前世特集と言うのをやっていて、それで初めて自分が珍しい物を持っているのだと言う事を知った。  友人に話しても信じてもらえず、親も何かのアニメの影響かと取り合ってくれなかった。  何の立証も出来ないことが分かった時、オレは前世の記憶があると言う事を人に言うのを止めた。  言ったとしても、先ほどの衛人のように馬鹿にされるだけで…子供ならそれで許されるだろうが、この年で言って回るとどうなるか、分からない程無知じゃない。  手を、胸に置き、深呼吸をする。  そうすれば、大切な人の重みを思い出せる気がした。 「…会いたいよ………『天野祝』…」

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