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 人は死んでもしばらくは意識があるらしい。  いや、意識…と呼べるのか?  正確になんと言うのかわからないけれど、生命の途絶えた体にオレの意識は確かにあった。  胸の苦しさと、息切れと、むくみと…さまざまな症状は心臓が悪かったのだと思う。昔から付き纏っていた事だったけれど、オレはそれを気のせいと気付かないようにしていた。  だって…職を下ろされたくなかったから。  『小竹社』の神職を外されたら、『天野祝』と会う事なんてなかなかだ。  オレは、ずっと彼の傍に居たかった…  ピクリとも動かないオレの体の傍らで、『天野祝』が泣いている。  いつも強気で、でも、実はふとした事で泣いちゃったりする…それをばれないように必死に隠すから、気付かないふりをしてあげてるけど、実は知ってるんだよ。  オレの最期が、『天野祝』に看取られたものだったのが凄く嬉しい。  苦しくて、苦しくて…彼の腕を引っ掻いてしまったけれど、『天野祝』は最後の最後の一息を吐くその時までしっかりオレを抱き締めてくれていたから…嬉しかったんだ。  だって…じゃないと、『天野祝』に抱き締めてもらえる事なんて有り得ないから。  大好きだったんだ…  だから、体の具合が悪いのも隠してた。  大好きだったから、  きっと、オレは生まれ変わっても、『天野祝』の事を覚えているんだ。  オレの後を追った『天野祝』…  自ら喉を掻き切って果てた…  止めろと、止める事も出来ず…でも、彼がオレの体の上に倒れ臥してその重みを感じた途端、ものすごく安堵したんだ…  オレは、薄情?  オレ達の合葬の為に起こった悲劇の事も、オレは知っている。  …と言う事は、やはり死んでも意識があると言う事で…記憶は脳ではなく魂とやらに蓄積されるのか? 『阿豆那比之罪(あずなひのつみ)』  何故その罪の罰が日蝕なんだろう?  日蝕は、天体の配置によって起こる現象で、たまたまオレ達の事柄と、世紀の天体ショーが重なっちゃっただけなんじゃないかと思う。  寿命の短かった昔は、日蝕なんて一生に一度体験するかしないかぐらい貴重なもんだし、そのメカニズムも全く分かっていなかったんだから、神の象徴であり『天野社』の祀神の姉神であるアマテラスが隠れれば、そりゃあ…凶事だろう。  日本人、昔からこじつけがうまいしね。  そう思うと、戦々恐々と思えた日蝕はただの天体ショーになった。  うん。  隠れたって、数分後には出てくるんだから、怖くない。  …昔の人があんなに怖がった日蝕をそうあっさり言っちゃうオレは……やっぱり、薄情?  天罰か神罰か知らないけれど、日蝕の件で納得してしまうと、問題はもっと他に出てきた。  日蝕とかよりむしろ、生まれ変わりとかの方が興味深いんですっ!!  さまざまな書物を読み漁り、さまざまな事柄を調べ、事例を見つけ、日蝕のように何かしら科学的に説明がつかないものかと一人奮闘しているうちに、気が付いたら科学教師の免許が取れてしまっていた。  勿体ないから、教職を目指して就活を頑張ってみた。  伝手もあり、うまい具合に潜り込めたその高校で、オレは……会った。  緊張以外のもので、マイクを持つ手が震えて、うまく喋れたかどうかなんて覚えてない。  最初に見たのは後頭部。  ああ、やんちゃな生徒の多い学校なんだろうなぁ…どうなるかなぁ…なんて思いながら挨拶をした。  こちらを振り返ったその生徒に、見覚えがある。  いや、見覚えなんて言うのかどうなのか…  1800年前から比べると、日本人の顔立ちだって変っている。  だから、分かる筈がない。  なのに、その生徒だけが、色づいて見えた。  オレが見てきた今までの世界が、色褪せた世界なんだと実感できるほどに、彼だけビビットカラーに見える。  壇上から飛び降りて、抱きつきたかった…  でも、そうできなかったのは……オレは分かっても、『天野祝』がオレの事を分からないから…  …前世の記憶があるのは…特殊な例だと……オレは知っちゃったから…

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