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「おか…だ?」
悪い冗談だ。
質の悪い…
岡田がオレを抱き締めてくれるなんて…
何が起きているのかわからなくて、震えながら岡田を見上げるけれど、暗い光に覆われた空のせいか岡田の顔ははっきりとしない。
何?
どうして、オレを抱き締めてるんだ?
「…あ……」
あ?
続きを待ってみるが、岡田は続きを言おうとはしない。
「本当に、どうしたんだ?」
「日野ちゃん」
固い声に、体中から汗が出る。
何か悪い事を言われるんじゃなかろうかと言う不安感が胸を打った。
どくり…
異常な心拍音に聞こえるそれが耳一杯に広がる。
「日野ちゃん」
何?
どっどっと打つ心臓の音で岡田の声を聞き逃してしまいそうだ。
「だから、どうしたんだよ?さっきから」
胸が、苦しい…
「好きだ」
思わず飛び上がる。
胸が苦しいせいで、幻聴を聞いたんだと思った。
じわじわと岡田が言った言葉が染み込んでいくにしたがって目も口も開いたままふさがらなくなり…
そんなオレを岡田が奇妙なものを見る目つきで見ていた。
これ…は、告白?
告白っ!?
返事!
返事……
嬉しい!えっと…何か気の利いた言葉って考えるのに、今にも湯気が出そうな脳みそは「うん」としか返事をしなかった。
「へ?」
へ?って…なにさ?
ああ…返事、やっぱり「うん」じゃだめだよね。
さっきとは違い、たくさん言葉が浮かんだけれど今度は喉が干上がって言葉が詰まる。
「……あり…がと………その…嬉しい」
素直な感想を言った途端、岡田の体が飛び上がった。
え…何。
その反応。
もしかして…
「何驚いて…あっ…もしかしてなんかの罰ゲームだったのか!?」
なんかのゲームで負けて、嫌々言ったのだろうか?
生徒たちにしたらただの遊びでも…オレにはちょっと……かなり…きついぞ。それは。
「いやいやいやいやいや!違うっ…ちが………う………」
決して、オレを見るとは思っていなかった目が真摯に見ている。
「俺、本気だから…」
本気?
本気で…好きだって……言ってくれたのか?
「…そか……よかった…」
頬に触れてきた岡田の手が熱くて、一瞬溶けそうだ…なんてばからしい事を考えた。
手から伝わる確かな温もりと震えに、彼の心が確かにそこにある事を感じて…胸が詰まって、涙が零れそうになる。
薄暗い世界で岡田を見上げると、何処か不安そうな笑顔がこちらを見下ろして…
もしかしたら、岡田もどこかで日食が忌むべきものだと感じているのかもしれないと、その表情を見て思った。
彼にはオレの記憶はないけれど、根底に沁み込んだ恐怖のようなものがあるかもしれない。
だから、そんな彼の不安を拭い去る為に、殊更努めて大人びた教師の声で宣言する。
「そろそろ、終わるよ」
そう、終わる。
日食が永遠に続くなんて嘘だ。
あの時のオレ達に罪はなかった。
そう、断言する。
そう、証明する。
太陽は、出る。
陰っていた表情の岡田が何を思ったか、何を考えているか…そんなのオレには分からないけれど、オレの言葉は確かに彼に届いて…ほっとさせたようだった。
「うわっ眩しっ」
「な?言った通りだろ?」
にかりと笑ってやると、ぽかんとした岡田が微笑んだ。
今も昔も変わらない、笑顔。
世界の広さも、禁忌も、人も…すべてが変わったとしても、これだけは変わらないよ。
君が好きなんだって気持ちは…
END.
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