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すっかり言うことを聞かなくなった犬が、下校中の生徒の群を目掛けて走り出す。
「わっ」
「ちょ…こっちくんな!」
「でっけぇなぁ」
突然飛び込んできたゴールデンレトリバーに、口々に驚きの声を上げる中、一人だけ嬉しそうな声を上げる少年がいた。
「わっ……あは、舐めるなって!くすぐったいって!」
そう言いながら涼しげな目元を弛めて笑う。
「なついてるなぁ」
「そうかな?」
「犬の名前なんて言うんですか?」
周りの生徒にそう尋ねられ、ゆっくりと口を開く。
「 ノリヒロ」
そう言うと、彼らは口々にその名を呼びながら犬を撫でていく。
けれど、彼は呼ばない。
整った唇を笑みの形に歪めながら、こちらに視線を流す。
涼しげな目が、一瞥した。
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