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体を動かされて、はっと目を開けた。
覗き込んでいる涼しげな目に驚き、飛び上がる。
「ぅ…ぁっ!」
体がバラバラになりそうな痛みに呻いていると、彼は立ち上がって自分の制服を整えた。
「ナカの精液は掻き出しておきました、消毒とか薬とかは自分でしてくださいね」
あまりにも違う彼の態度に、自由になっている手をぼんやりと見る。
「じゃあ、僕はこれで…」
リビングへと繋がる扉を開けると、大きな影が彼へと飛びかかった。
「お?お前部屋の中で飼って貰ってるのか、恵まれてるなぁ」
無邪気に笑い、ゴールデンレトリバーの金の毛皮を撫でる。
「遊んでやりたいけど、もう遅いから帰らないといけないんだ。…そんな顔するなよ。な?」
犬に向かってそう話しかける彼に、こちらを向いて欲しくて声をかけた。
「ご…主人さ…ま」
そう呼び掛けた瞬間、彼の眉が微かに上がった。
自発的に『ご主人様』と呼んだことにより、完璧に紀洋が手の中に堕ちたことが分かったからだった。
「どちらへ、行かれるのですか…?」
「ん?家に帰るんだよ」
さらっとそう言い、犬の頭を撫でて立ち上がる彼のズボンの裾にすがり付く。
「や……やだ…」
がっ…と掴んだ手が蹴り飛ばされてよろめくと、犬が二人の間に飛び込み、紀洋に向かって低い唸り声を上げ始める。
「いいよ。お座り。伏せ」
そう言うと、犬はその言葉通りに彼の足元に平伏す。その頭を撫でてやりながら、彼は紀洋へと視線を動かす。
その目は再び、支配者のそれに変わっていた。
「…気が向いたら、また来てやる」
その言葉が、紀洋の耳を甘く打つ。
ひやりとした目に睨まれ、体の奥がじんわりと痺れるのを感じて、紀洋は笑んだ。
「ただし、それまでオナるの禁止な」
「え…」
「いやならいい」
そう言うと、彼はすたすたと玄関へと向かう。
「お邪魔しました」
ぺこりと礼儀正しく頭を下げる彼に、紀洋はすがるような目を向けた。
「また…来てくださいますよね?」
「無駄吠えすんな、この駄犬」
「も…申し訳…ありま…せ……あの、せめて…お名前を…」
汚いものを見るような目が、ちらりと投げられる。
「ペットに主人の名前を教えてどうするんだ?」
「ぅ……もうし、わけ…ございません…」
項垂れた紀洋の耳に、静かに扉を閉める音が届く。
ぱたん…
追いかけたいが、ギシギシと悲鳴を上げる体に邪魔されてフローリングに寝転がった。
「ぅ…つ……」
ぱた…ぱた…と、彼の出ていったドアを見ながら、ハタキのような尻尾を振る犬に声をかける。
「こい」
犬は、聞こえなかったかのように尻尾を振り続ける。
彼の触れたその被毛に触れたくて、手を伸ばす。
「ここにこい!」
そう怒鳴り付けるが、犬はちら…とこちらを見ただけでさっさと寝床へと行ってしまった。
伸ばした手が、力なく床へと落ちる。
「…ふ…ふふ……」
腹の底から沸き立つ衝動に促され、小さく笑いながら床を転がる。
「ぅ…ふ……来て……」
こちらに向けられるひんやりとした目を思い出し、熱く芯を持ち始めた下半身を床へと擦り付ける。
「……くだ…さ…………」
来て、くださいますよね?
―――――ご主人様
END.
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