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bluebird 1

 泥酔した脳が揺れて、冷えたコンクリートの道路に尻もちをついたのが分かった。  それと同時に、盛大に手を振り払った友人が戸惑うようなそぶりを見せて、何事かを厳しい調子で吐き捨てて踵を返してしまう。  暗い、街灯が届かなければ本当に闇に沈んでしまう世界に消えていく友人をぼんやりと見送り、恋人に振られた人間は酒を飲んでくだを巻いても許されると思い込んでいた自分勝手な頭を振る。  随分と酒を飲んだために、そんなことぐらいじゃ酔いは醒めてはくれなかったけれど、道端にぽつんと一人取り残されたと言うことだけははっきりと理解できた。  温かい手が握っていてくれた掌が一瞬で冷えて、駆け足で遠ざかって行った背中が、少しでも早くオレから遠ざかりたかった恋人の背中と重なって…… 「……お前まで、行っちまうのかよ」  それでも、オレは友人のことを薄情だと罵る気にはなれなかった。  男の恋人を作ったオレに、友人は理解を示してくれた。  金をせびるようになった恋人に、友人は憤ってくれた。  浮気を繰り返す恋人に、友人は幾度も注意してくれた。  暴力を振ってくる恋人に、友人は怒鳴り込んでくれた。  マイノリティな、しかもその中でもかなり最低な恋愛しかできなかったオレに、幼い頃からの友人は寄り添い、助言し、時には…… 「盾に、なってくれたことも あったっけなぁ」  恋人が望む通りの金額を差し出すことができなくて、虫の居所が悪かったってのもあってひどく殴られた時にはオレを庇って殴られて。  今ならば申し訳ないことをしたと思いもするし、恋人が悪かったのだと怒りもできるが、恋は盲目とはよく言ったもので、この歳になって初めてできた恋人に浮かれていたオレには、恋人の行動が正しいのだから としか思えず、友人の行動を非難したりもした。  ロクでもない恋だった。  それだけははっきりとわかるし、オレを今まで見捨てなかった友人は聖人か何かだろう。 「  ……置いてくな  よ 」  呟いた声は夜の静寂に消えて、追いかければもしかしたら掴まえられるんじゃないかって思いついてふらりと立ち上がる。  友人の背中が闇に消えたのは見ていたけれど、それがどちらかわからずに電信柱に手をつきながらこてんと首を捻ると、ちら と視界に白いものが過った。  暗い闇夜に皓く淡く見えるそれに視線を動かした瞬間に、視界がブレてよた と金網に倒れ込んだ。  そんなオレの鼻先に、小さくて冷たいものが乗っかった。

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