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千年の愛を貴方に 5

「おっかえりなさーい!今日も貴方のハートに愛を届けるコウノトリ!ツルでーす!」 「どっちだよ」 「紛れもないツルです」 「……なんで出て行ってないんだ?」  出かけた時よりもさらに綺麗になっている室内に、あれからぐるおはずっとここに居たんだと、俯いてぐっと唇を噛み締めた。 「恩返しに、羽の代わりに髪を編みこんだマフラーでも編もうと思って」 「呪いのアイテム作んな!」  チクチクしそうだし、暑そうだしで思わず唸りながら部屋に入って寝転がると、ぐるおは慣れた動きで俺の頭を抱えて膝に乗せてくる。 「こうするのも久しぶりですね」 「……」  筋肉質の太腿は膝枕には不向きすぎて、直角になった首の痛みに呻きながら体を起こす。 「食事にされますか?それともタオルを絞ってきましょうか?」 「それより出て行け」  考えられる中で最大の冷たい声音で言うけれど、ぐるおはにこにことしたままだ。  ぐ と言葉が詰まってもうこれ以上冷たく突き放すのは限界だった。 「いい加減にしてくれっ!この暮らしを見ただろう!俺はっ……今世もっお前に楽をさせてやれない甲斐性なしなんだ!」  添った相手くらい幸せにしてやりたいと思うのに、いつもいつも俺のすることは空回りでいつもいつも苦労ばかりさせて…… 「では、私が幸せにします」  自信満々に言われた言葉に眼を瞬くと、肉厚な唇が嬉しそうに笑みの形になって行く。 「一方的に、守ってもらわなきゃいけないのは番とは言いません、お互いがお互いに寄り添って、互いの羽で飛ぶことが大事だと思います。今世貴方が疲れたのならば、私が支えればいいだけのこと」  ぎゅっと拳を握った手を差し出される。 「ご覧ください、鳥の翼はございませんが、貴方を支える腕があります。貧乏?それがなんだとおっしゃるのか、私の不幸は旦那様の傍にいることができない、ただこの一点のみ」  青い瞳にひたりと見詰められて、体中がわななく。 「ツルは一生涯、番を替えることはないんですよ」  ごつい男には似合わない柔らかい微笑を零し、手を取られて口付けられる。 「貴方に出会い救われ、生涯で初めて恋に落ちてから幾星霜、私はただ貴方への愛のためだけに在るのです」  手の甲に落ちる涙は遠い昔から変わらず温かで、きっとこれから先も同じ温かさなのだと信じさせてくれるぬくもりだった。 END.

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