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告白
「いいよ」
それを聞いた時、たぶん俺は間抜けな表情をしたと思う。
夕闇の迫る教室の中。
俺たちしかいないそこでは、遠くから聞こえてくる部活の声しか、音のない世界。
「付き合おう」
そう言って目の前の男、浅井蓮は俺の事を抱きしめた。
そんな事は初めてされたから、動揺して離れようと胸板に両手を添える。
けれど次に聞こえた言葉に、俺はだらりとその手を下ろした。
「ごめん、嘘。俺もお前の事が好きだよ。『付き合おう』じゃなくて、『付き合いたい』んだ」
呆気に取られている俺に構わず、浅井は次々に言葉を放つ。
それが俺にとってどんな影響を与えているのか、その言葉が俺の中に入ってくるたびにどんな顔になっているのか、想像もしていないのだろう。
「プっ、何て顔してるの」
だから少し体を離して覗き込んだ俺の顔を見て、笑うんだ。
けどそんな浅井の反応を見ていたら、じわじわとさっき言われたことが頭に入ってきて、情けない顔のまま、情けない声を俺は出した。
「ほん、と? 本当に俺と、付き合ってくれるの? 冗談じゃなくて?」
「冗談で男と付き合わないよ。少なくとも、俺はそんな事しない。鳴海が俺を見てる事、気が付いてたよ。鳴海から行動してなかったら、俺から告白しようと思ってた」
そう言って笑う浅井の顔に冗談は感じられなくて、本気なんだと分かって。
「なに泣いてるの」
じわりと、涙が滲んだ。
「だって……俺、今日、フラれるつもりで……っ」
「これでもアピールしてたつもりなんだけどな、俺。グループ作るときは一緒になったり、積極的に挨拶したり、声掛けたり。全部届いてなかったってことか、残念」
俺の涙を親指で拭いながら浅井は言う。
言われてみれば確かに、俺は良く浅井に声を掛けられていた、気がする。
クラスのカーストトップにいる浅井と、平凡な俺。
関わる事などあまりないはずなのに、喋る事も奇跡なはずなのに、俺は良く浅井に声を掛けられていた。
それは単に浅井が人当たりの良い性格をしているから、そう思っていたがまさか、俺と同じ気持ちを抱えていたから、だなんて。
肩を落とす素振りをする浅井に、俺はもっと涙を溢れさせた。
そうしたら今度は雫を舌で掬われて。
「キス、していい?」
指で唇をなぞられる。
顔に熱が集まるのを感じながらも、俺はコクリと頷いた。
緊張から涙が引っ込んで、顔が強張る。
瞼を閉じて、触れ合う熱を待った。
近づく気配と、合わさった唇。
触れ合った瞬間それはすぐに離れ、安堵したと同時に目を開ける。
すると、至近距離にある顔に驚いた。
浅井は離れずにじっと俺の顔を見ていて、俺もそれを見つめ返して。
また、唇が合わさる。
今度は何度も角度を変えて、短く触れたと思ったら、長く触れて。
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