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普通から……
「俺、もう……どうにかなっちゃいそう」
息をすることも忘れてそれらを享受していたら、当然ながら息切れを起こすわけで。
浅井の肩に額を付けながら、荒く息を吐いた。
「舌も入れてないのに、これだけでバテるなんて可愛いね」
「し、したっ?」
「入れるよ、いつか。今入れてもいいけど」
「や、やめとく!」
少し顔を上げて浅井の顔を伺ったら、薄く笑って俺を見てきた。
今それをやられたらどうなるか分かったものではない、そう思い慌てて首を横に振る。
けれどそのいつかを想像してしまい、顔が勝手に赤く色づいた。
「やらしいね」
それに気づいて、俺のほっぺを両手で包むと、髪の上から額にキスをされる。
それだけで体がビクリと跳ねたのを見て、満足したように浅井は側に置いていた鞄を取った。
「帰ろうか」
「……うん」
少し、名残惜しい気もする。
くっついていた体温が離れて、隣に移動して、俺も鞄を手に取って、並んで歩いた。
それはきっと、俺の人生が最高に輝いていた最後の瞬間だったのだろう。
普通の人でいられた、最後の一日。
高校受験から気になっていた存在、入学して、違うクラスだったけど見かけたら目で追って、二年になって同じクラスになって、話すようになって、一学期最終日、失恋覚悟で告白をして。
良い返事を貰って、それで俺の運はきっと使い切ったのだ。
翌日から俺は、〝普通〟じゃなくなった。
「ん……?」
朝目覚めると、何だか瞼が重い気がした。
昨日、携帯の画面を見ながら眠ってしまったからだろうか。
――明日、予定ある?
それから始まったラインのやり取り。
漸く手に入れた浅井のラインと、初めてするやり取りに嬉しくて、舞い上がって、『じゃあ明日、図書室の前で待ってるから』と、それを最後にするまでのやり取りを何度も読み返していたら、いつの間にか眠っていた。
起きて、またラインを確認して、それで昨日の出来事が夢ではないのだと知って、朝から舞い上がって。
「嬉しそうね」
そう母に言われても、「うん!」と無邪気に答えていた。
「鳴海」
図書室の前にあるベンチに座っていたら、浅井が来た。
「早いね」
「浅井こそ」
俺は居ても立っても居られなくて、三十分前にはここに着いてしまっていた。
今は十分前、浅井も充分早いと思う。
「入ろうか」
そう言う浅井と共に、俺たちは図書室へと入っていった。
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