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ガラスのつばさ(4)
冷えきった廊下を、俺はゆっくりと歩いた。
木が軋む音が、心臓の奥に突き刺さる。
一番奥の部屋にたどり着き、戸をするりと滑らせた。
上座に座っていた父が、一瞬俺を不機嫌そうに見上げ、視線で座るように促してくる。
俺は後ろ手で障子を閉めると、ひとつだけ空いていた座布団に腰を下ろした。
すぐに叔母が、浅い湯のみに茶を注いでくれる。
これまでにない数の親族がこの一室に会しているというのに、その場は静寂に覆われていた。
だが、涙を流している者は誰もいない。
俺は叔母に礼を言ってから、湯飲みに口をつけた。
それを追うように、父の濁った瞳が俺の手元を捉える。
そして、深いため息を吐いた。
「まさか、こんなことになるとはな……」
「よくもまあ、やっかいなことばかりを残して逝ってくれるものね」
父と母の言葉は、憎悪に満ちていた。
胃液が食道を焼きながら、じわりじわりとせり上がってくる。
それを抑えるように啜った茶は温く、吐き気がどんどん増してきた。
「どうせろくに躾けられていない子供たちなんだろう」
力任せに湯飲みを盆の上に戻すと、そこにいた全員の視線が俺に集まる。
俺は、父を真正面から見据えた。
「そんな風に言うのはやめてください」
声が震えた。
「あの子たちは、兄さんの子供です。その兄さんは、あなた方の息子だ」
父は、俺の言葉に小さく舌打ちした後、何度か首を横に振った。
「兄さんはもう死んだんです! 死んだ後くらい、認めてやってください!」
声を荒げ腰を上げた俺の肩を、気の弱そうな叔母がなだめるように叩いた。
俺がもう一度腰を下ろすのを見届け、父はさも嫌そうに言った。
「裏切り者にかけてやれる情けなど持ち合わせていない」
「わあぁぁ……ん!」
俺がギリっと奥歯を擦り合わせたのと同時に、廊下の奥から子供の泣き声が聞こえてきた。
母がやたら大きくため息を吐き、父は眉を吊り上げる。
遠慮がちに立ち上がろうとする叔母を制し、腰を上げた。
「俺が見てきます」
「情でも沸いたか? 蓮 」
父の嘲笑を無視し、俺は部屋を出た。
情?
そんな安い感情では、あの子たちの失ったものは埋められない。
今はまだ理解していないのかもしれない。
だが、いつか必ずやってくる。
両親の死と、真正面から対峙しなければならない時が。
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