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ガラスのつばさ(5)

 いつの間にかたどり着いていたその部屋の扉を、静かに開けた。  くぐもっていた声が一気に音量を上げ、長い廊下にこだまする。  響いたのは、幼子たちの悲痛な叫び声。 「パパァッ、ママァッ……!」  布団に縋り付きながら、えぐえぐと泣きじゃくっている公太(こうた)。  その濡れた頰に、草太(そうた)が右手を振り下ろした。  冷たい音がして、小さな身体がぐらりと傾く。  胸倉を掴み、草太は弟を引き起こした。 「パパとママは、おそらのおほしさまになったんだ!」 「ちがうもんっ……」 「せんせいがいってただろ、そうだって!」 「ちがうもんーっ!」 「ないちゃだめなんだよぉ……っ」  もう一度、草太が公太の頬を打った。  そしてまた、もう一度。  自分もその頬に涙を伝わせながら。  歯を食いしばり、肩を震わせながら。 「公太、草太……!」  ふたりに駆け寄り、力いっぱい抱きしめた。  小さな身体の大きな震えが伝わってくる。  この子たちの悲しみが、流れ込んでくる。 「やめろ……もうやめろ!」  ああ、兄さん。  なんてことだろう。  この子たちは、ちゃんと理解しているよ。  あなたの〝死〟を。  お星様なんて綺麗事では済まないということを。  もう二度と会えないということを。 「泣いていい。君たちは、泣けばいいんだ!」  ふたりの腕が俺の背中に回され、四つの手がシャツを強く締め付ける。 「パパ、ママっ……!」 「なんでしんじゃったのぉっ……」  どうしてなんだ、兄さん。  まだ羽も開かないこの子たちを、どうして置いていくことができたんだ!  なんでもう少し。  あと少しだけでも、生きていてやれなかったんだ!  この子たちを抱きしめるために。  優しい言葉をかけてやるために。  涙を微笑みに変えるために。  生きていてやれなかったんだ!  あなたにとっての幸せが、両親と離れることであったように。  この子たちの幸せは、あなたの側にいること。  ただ、それだけだったのに。

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