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一階の端、結構なスペースを占有している手芸店に入る。
洋裁を趣味にしているであろうご婦人や、子供のものを作る若い母親の姿がチラホラ見えた。
「あ、あの、嫌ならベンチに座ってていいんだからな?」
ご婦人がたの視線が気になるだろうからと、瑠維が呟く。
確かに、商品を選ぶ彼女達の視線が二人に向けられているのだ。
「構わない。
元々、瑠維に頼みたいものもあるからな。
気にせずゆっくり回ろう」
穏やかに笑う忍に、ホウッと息を吐く。
以前来た時は上背のある玲が目立ち、注目を浴びまくってしまった。
それだけなら別に構わないが、番犬と化した玲が周囲を威嚇しまくり、居心地が少々悪かったのだ。
それからは一人で来るようにしていたのだが、今回は忍がリクエストしたいものがあるからと連れられて来たのだが…。
『頼みたいって、何だろ…?』
補充用の糸や端切れ等をカゴに入れながら忍を見ると、何かをさりげなく探している。
急かさないように、瑠維が焦らないようにと気遣っているのだろう。
コーナーを曲がる時などに視線を巡らすのだ。
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