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◆◇◆◇◆
とくん…。
とくん…。
薄闇のなか、拍動が合わせた肌から伝わってくる。
愛おしい命が打つドラムの響き。
そして、甘い肌の香りが鼻を擽る。
成熟した牡の香りなのだが、野卑なものでは決してなく、絶対的な安心感をもたらしてくれる、甘やかでいて、華やかな…芳香。
時には、それだけで躯を蕩けさせる事すらある忍の肌の香り…。
半ばうっとりとしながら、生まれたままの姿で肌を触れ合わせ、視線だけを窓に向けて小さく呟く。
「朝なんか、来なきゃいいのに…」
もっと忍に尽くしたい。
極上の快楽へ誘(いざな)いたい。
愛おしさを篭めて忍の胸に頬を擦り合わせていると、髪や背中を撫でられた。
「ん…?
もう朝か…?」
少々軋む体で起き上がり、薄目を開けた忍を慌てて腕の中に包み込む。
「まだだよ、忍。
朝はまだきてない。
だからさ…、もうちょっと寝よう?」
「ん…………」
子守歌のように囁くと、瑠維の腕の中で忍が再び寝息をたて始めた。
「こうしてる間は、時間が止まっちゃえばいい…。
朝なんか、来なきゃいいんだ…」
艶やかな黒髪に口づけを落とし、伴侶の寝息に誘われるように自身も眠りの淵へと堕ちていく。
あと少しだけ、二人だけの時間にたゆたう為に…。
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