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4 累(Past days~2056・後編~)
学級委員長の津木は人当たりも良く、面倒な事もさらりと遣って退ける。
要領がいい為、面倒事は押し付けられるのではなく、上手く人を使って解決しているようだった。
そして、津木は水泳部のエースでもあり、オリンピック候補だとも噂されている。
そんな彼に、しつこく付き纏われ、累は秘密を暴かれそうになっていた。
健康診断の一件から、数日経ったある日の下校時間、累が一人で自宅最寄りの公園の前を通り掛かった時、不意に誰かが背後から抱き着いてきた。そして、そのまま公園内に引き摺り込まれてしまう。
カラフルな遊具が沢山あり、子供達が大勢遊んでいる中を、累は何の抵抗も出来ずに、最終的には公衆トイレの個室に連れて行かれてしまった。
「…こんな事して、緊急通報を作動したら、どうするつもりだよ?」
背後にいて顔の見えない相手に、累はなるべく平静を装った。相手が誰なのかは、見当が付いている。
「しないだろ?…俺だって分かってるくせに。」
その声に、累は幾ばくかの安心を覚えた。間違いなく津木周弘だ。
「なぁ、いい加減、琴平君の体の秘密、教えてくれよ。…あれから眠れないんだよ。」
「そんなの、俺には関係ない!」
「えー?俺さ、琴平君が一人だけ特別待遇な感じで、カウンセラー室で検査受けてた事、みんなには内緒にしてあげてるんだよ。こんな俺に、そんな態度って、どうかと思うけど…。」
「脅迫するつもり?…兎に角、手を放してくれ!暑苦しい!」
累は絡み付く津木から、逃げようと藻掻いた。
「やだ!…折角だし、直接暴いてやるよ!」
津木の片方の手が、累のベストの下に潜り込んできた。そしてそれは、累が隠していた物を掴んだのだった。
「…!」
声も出せずに固まる累とは対照に、驚愕した顔の津木は、速やかに累を解放した。
「ご、…ご免!やっぱり女の子だったんだな…!」
累は慌てて否定する。
「違う!」
「いや、だって…、オッパイ…あった。」
津木は自身の手の感触を再現しながら、頬を紅潮させ、申し訳なさそうな顔をした。
完全に誤解している。そう思った累は、真実を話すことにした。
「…女じゃないよ。これは…特発性女性化乳房って奴なんだ。ホルモンのバランスが崩れて、一時的にこうなってるって言われてる。」
それを聞いた津木は、小首を傾げながらも、理解しようと努力しているようだった。
「…女性化?…じゃあ、下は付いてるのか?」
「ちゃんと、あるよ。」
「本当に?…胸だけが女性化しちゃってるの?」
津木の興味津々な目の輝きに、累は嫌な予感がしてきた。
「それならさ、…胸の方、ちょっと見せてよ。」
「何でそうなるんだよ!?絶対にダメだ!」
累が拒絶の態度を取ると、津木は企み顔をして、人の悪そうな笑みを浮かべた。
「なぁ、琴平君。…クラス全員にバレて揶揄われるのと、俺一人に見られて…守って貰えるのとでは、どっちがいいと思う?」
「…どっちも嫌だ。」
累が睨み付けると、津木は溜息を吐いた。
「分かってないな。おまえに拒否権はない。…バラされたくないだろう?」
暫しの沈黙の後、脅迫に負けた累は、震える手でベストをたくし上げ、それからシャツのボタンを外していった。それをもどかしそうに見ていた津木は、手伝うようにして、シャツの前を大きく開いた。
累の前が晒され、津木の顔がそこに近付く。息が掛かりそうな距離だ。
「小さいけど、ちゃんとオッパイって感じだな…。乳首もちょっと大き目なんだ!でもピンクで可愛い…。吸いたくなる。」
間近で観察され、累は屈辱感で一杯になった。
「見たんだから、もういいだろう!?」
累が前を閉じようとした瞬間、それは津木によって阻止されてしまった。
「もう少しいいだろ?…言ったよな?拒否権はないって…。」
抵抗し始めた累の両手首を、津木は器用に片手で壁に縫い付けた。そして、自由な方の手で累の乳房を触り始める。
「…うっ、やめろ、変態!」
「柔らかいな…。可愛い…。なぁ、乳首、舐められるのと吸われるの、どっちがいい?」
「どっちも嫌に決まってるだろ!?」
蹴りを繰り出そうとした累の足は、津木の膝によって押さえ込まれてしまった。
累が敗北したその隙に、津木の舌が累の片方の膨らみを這った。
「や…!」
抵抗出来ない累が、その舌が先端に辿り着くのを許すと、一気に口腔内に含まれてしまった。
先端を舌で何度も転がされ、やがて吸われ始める。
「嫌だ!…あ…!ん、やぁ…。」
累は思わず上げてしまった声に、顔を背ける。
「感じちゃった?琴平君って、エロいな…。」
「そんなんじゃない!…もう、いい加減に解放してよ!」
涙目になって累が叫ぶと、津木は行為を止め、掴んでいた両手首から手を離した。
「ご免。でも、本当に可愛くってさ…。」
「可愛かったら、何でも口に含むワケ!?」
「いや、そういうんじゃないけど…。自分でも、こんな風にするとは思ってなかった。本当にご免。」
津木は急に反省の色を見せ始めた。
そんな彼に、累は駆け引きを申し出る。
「さっきの事、なかった事にしてくれるんなら、津木君の事、許すよ。」
「それは、ちょっと違う気がするな…。」
津木は累の形勢逆転を、やんわりと否定した。
「琴平君の秘密を、知ってしまった事は変えられない。…君はこれから、俺に守られて中学生活を送るんだよ。」
その言葉だけを聞くと、累にとってマイナスな点はなさそうだった。
しかし、津木は捕食者のような瞳をして、累を見ている。
「…ここ暑い。…もう帰らせてもらうよ。」
累は涙を拭き、制服の乱れを整えると、トイレの個室から出た。
その後を追って出て来た津木が、爽やかに微笑む。先程とは打って変わり、通常時の彼になっていた。
「それじゃあ、また明日、学校でね!」
そう言って、津木は先に公衆トイレを出て、帰っていった。
それを見送った後、累は冷たい水道水で顔を洗うと、混乱と困惑を入り乱せながら、帰途に着いたのだった。
翌日、不安を覚えながら登校した累に、津木が意味深な笑みで囁いた。
「今日、琴平君にプレゼント持って来たから。…放課後にね。」
更に不安を抱え、放課後を迎えた累を、津木は空き教室へと誘った。
「はい、これ。」
津木はバッグから、スポーツ用品店のロゴが印刷された紙袋を取り出すと、累に手渡してきた。プレゼントと言っていたが、リボンは掛けられていない。
「…何?」
「開けてみて。」
戸惑いながら開封して見ると、それは白いサポートタイプのランニングシャツだった。
津木がそれについて説明する。
「昨日、琴平君と別れてから、思い立って買いに行ったんだ。…これ、薄くて通気性抜群なんだけど、サポート力が凄いらしくてさ、乳首もカバーしてくれるし、走った時の揺れもなくなるらしいよ。」
累は急に顔を赤らめる。走った時の揺れ、という言葉に反応してしまった所為だった。
「明日、体育があるから、琴平君の事が心配になってさ…。取り敢えず、三枚買ってきた。」
「…有難う。高かったんじゃない?お金、払った方がいいよね?」
累が素直に礼を言うと、津木は首と両手を横に振った。
「いらないよ。プレゼントって言っただろう。…ねぇ、着てみてよ。」
「え、今?」
累は困惑する。感謝の気持ちが一転しそうになった。
「…トイレで着替えて来ていい?」
「えー、ここでいいだろ?…誰も来ないって。」
――津木君の目の前だから、嫌なんだろ!
そう口から出掛かったが、累は仕方なく津木に背を向け、上だけ脱ぎ始めた。その間に津木が開封してくれたランニングシャツを受け取り、サポート力に少し苦労しながら着用してみる。
「どう?見せてよ。」
累は先ず、自分で確認してから、津木の方を振り返った。
津木は満足気に何度か頷く。
「いいんじゃない?いい感じに胸、押さえられてる。…着心地は?きつくない?」
「大丈夫だよ。…有難う。」
累はサポート力を実感すると、そのまま制服を着ようとした。それを津木に止められる。
「試着終了。今日は脱いで、明日、着用しなよ。」
「え?折角、着たのに…。」
「一人で脱ぐの大変だろ?手伝ってやるよ。」
津木はそう言うと、強引に手を掛け、シャツを脱がせた。そして、勢いで累を押し倒す。
「何するんだよ…!」
「お礼、貰ってもいいだろう?」
累は津木の要求を察した。疑問形になっているが、ひとつの答えしか求められていない。
「いいよ…。」
累は固く目を閉じ、それを覚悟する。
津木の手が優しくマッサージするように、累の胸を触り出した。
「柔らかくて、綺麗だな。ずっと触ってられそうだ…。」
「…早く終わらせてよ。」
「うん、乳首、両方共、吸い終わったらね。」
温かい口腔内に先端を含まれ、津木の興奮した息が掛かると、累は変な気持ちになってきた。
吐息混じりの声を上げそうになり、必死で堪える。
数分間それは続き、終わった後、津木はいつものように爽やかに微笑んでみせた。
「ご馳走様でした。」
手を合わせる津木を見ない振りして、累は制服を着始めた。
「来週から本格的に部活が始動するんだけど、琴平君さ、水泳部のマネージャー…ってか、俺の専属マネージャーにならない?」
突然の提案に、累は眉を険しくする。
「水泳部なんて、嫌だよ。」
「マネージャーは水着にならなくていいんだよ。…特典として、体育の着替えの時、水泳部の更衣室を使える。うちのクラスで水泳部は俺一人だし、誰にも見られずに着替えられるよ。」
「か…考えとく。」
「うん、そうして。…途中まで一緒に帰ろう!」
二人は普通の親しい友人同士のように、帰途に着く。
流されている感を自覚しながらも、それを回避できない累だった。
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