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第1話・O

 遥か頭上では、まるで太陽を拒んでいるかのように木の枝が幾重も交差している。その下の地面では、むきだしの木の根が張り巡り、でこぼこした道をつくっていた。  時折、どこからか生温い風がじっとりと吹く。その風は陶器のように白い滑らかな頬を撫ぜた。  額からは細やかな汗が噴き出しており、身体も小刻みに震えている。  何度も後ろを振り返り、追っ手を気にする恐怖を帯びた大きな紫の目は、ただ深い緑が続く景色を写し出していた。  追い詰めてくる『ソレ』から逃げられるよう、彼は自分と対極の立場である天に祈った。  しかし、その祈りは当然のように届かない。  突如として、言いようのない冷ややかな殺気が彼の背後に生まれた。  彼の腹部に鈍い痛みが走る。――同時に何かが流れ出るような違和感も生じた。  鈍い痛みを訴える腹部はさらに熱を帯び、彼の意識を奪っていく。  小さな唇から苦痛を漏らせば、水のような何かが、むき出しの地面にぽたりと落ちた。  力が抜けていく手で唇を拭えば、真っ赤な鮮血に染まっている。  恐る恐る、痛みを訴える腹部へと視線を移す――。  彼の腹部。そこにはなんと、筋肉質な腕が(つらぬ)いていた。  その光景は、まだ十三歳の彼にとってあまりにも残酷な場面だった。  自分の腹部から腕が引き抜かれると同時に、気味の悪い何かが潰れるような水音が聞こえる。  焼けるような鈍い痛み。そして、血液が体外へと流れ出る光景を目の当たりにした彼の意識が遠ざかっていく……。  息絶えていく彼を(あざけ)る甲高い声と地獄の地鳴りにも似た低い笑い声が、ただただ響いていた。 【o・完】

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