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短編集 雨音 | ミヤコノカエルの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
短編集
雨音
作者:
ミヤコノカエル
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雨音
葵
(
あおい
)
×
彼方
(
かなた
)
(大学生、美形、不良受け) 雨の音がうるさいほどに聞こえる。 あぁ、そうだ…さっきまで俺は知らないやつらと殴り合いの喧嘩をしていた。 そいつらは途中で逃げたが、面倒な事に去り際に腹をナイフで刺された。 「いてぇ…」 ここは人気のない公園。しかも深夜1時を回っているため誰も通らないだろう… ただバイトから帰っていただけなのに、いつも見た目のせいでナンパされる→男だとわかり逆ギレ→殴りかかられるというパターンが出来ていた。 「君!大丈夫か!?」 うるせぇな…誰だ? 視界がボヤける中、目を凝らしてソイツを見る。明るめのオレンジの髪と整った顔が見えた。 ホストか大学生か… 「うわっ…お腹刺されてる…救急車呼ぶから、もうちょっと頑張ってね…」 ソイツは俺の手を握りながらそう言った。 頑張れって言われてもな…もうそろそろ限界なんだよ… そこで俺の意識は途切れた。 「………。」 目が覚めたら病院だった。 ドラマや小説でありそうな展開だ…。 どうせ次に目が覚めたのか?と声でもかけられるに違いない。 「…!?目が覚めたのか!よかった…」 ほらな。てかなんでコイツは俺に構うんだか…別に知り合いでもねぇし、救急車呼んであとは任せたらいいだろ。礼くらいは言ってやるけど。 「迷惑かけたな…ありがとう…」 「どういたしまして!てか俺、君の声初めて聞いたわ!いい声してんな!」 「…は?」 つい間抜けな声が出てしまった。普段そんなこと言われないし、言われたとしても可愛いだのなんだの… とにかく、声を褒められるなんて思ってもみなかった。 「…えーと、ありがとう…?」 「最初女の子だと思ってたんだけどさー」 「まぁ、そうだろうな」 「でも性別関係無しに君は美人だと思うよ」 「アリガトウゴザイマス…」 なんでこんな口説かれるような雰囲気なんだ…?俺が女だったら、そりゃあコイツの容姿でこの優しさならすぐ落ちるだろうよ。 でも俺は男だぞ? …別に恋愛対象は女ではないんだけど。 これには深いわけがある。中学生くらいの時に付き合ってた彼女がとんだヤンデレだったのだ。 私以外の女と話すなとかそんな生温いもんじゃない。 部活が長引いただけでカッターを向けられ脅されたり、ファミレスで女性店員相手に会計しようものなら道路に突き飛ばされかけたこともある。 …あれは怖かった。マジで死ぬかと思った。 親の都合で引越しをしたから逃げられたものの、あのまま付き合っていたら本当に死んでいたかもしれない。 まぁ、そういったこともあって俺は女性が苦手になってしまった。かと言って同性に対して恋愛感情を持ったことはない。襲われかけた事は何度もあるがな… で、だ。この状況はどうしたらいい?手を握られ、中々の近距離で見つめられ甘い言葉を吐かれている。 「ねぇ、君に一目惚れしちゃったんだ…試しでいいから付き合ってみない…?」 「えーと…せめて友達からとかはダメデスカ…あと名前…」 「だーめ。友達なんてつまらないよ。あ、俺は葵だよ。君は彼方くんだよね?さっき身分証探した時に見ちゃった笑」 そういう問題か…?断ったとしてもこれはしつこく付き纏われそうな感じがする…。 「い、1週間…なら…」 「ほんと!?やったー!!じゃあ今日から1週間よろしくね?」 ちゅっ 「っ、お前…!!」 「葵って呼んで?ね?彼方」 「あ、葵…」 「うん!いい子だね」 うん。意味がわからない。とりあえず助けてもらった礼だと思っておくか…。 にしても突然キスするかよ普通…
-数日後-
1週間まで残り半分くらいとなった。 あの日から半同棲みたいな感じで葵の家に世話になっている。 俺は家に帰っても誰もいないし、大学が葵の家から近いことがわかったから自分の家に帰る理由がなくなった。 たまに服を取りに行ったりはするけど。 「ね、彼方?」 「何…?」 「そろそろ気持ち俺に傾いた?」 「いや…」 「そっかぁ…」 傾いていないと言えば嘘になる。 毎日毎日好きだの愛してるだの囁かれてみろ… 元々愛情を受ける事に慣れていない俺は徐々に傾いていた。誰かが隣にいるあたたかさ…。 「…すき」 「え!?今何て!?」 「もう言わねぇ」 「好きってもう一回言って!」 「聞こえてんじゃねーか!!」 1週間まであと少し。どうなることやら。 「彼方ー!」 「んだよ、今料理中だから来んな」 「冷たいなぁー…。」 「…あとで構ってやっから…」 明日。明日で約束の1週間だ。 長かったような短かったような…。 でもなんだろう…葵の事をす、好きになってしまったからなのか明日が来て欲しくないと思っている自分がいる。 「お腹いっぱーい!彼方はいいお嫁さんになるね!」 「お嫁さんて…。まぁ、褒めてもらえるのは嬉しいけど」 「ね、彼方…」 「なに…?」 「キス…したい」 ドキッとした。普段ちゃらけているからこんな真剣な顔をした葵を見るのは初めてだ。 躊躇っていると葵は俺の肩にそっと手を置いてもう一度あの真剣な顔で… 「俺は彼方にキスしたい。いい?」 「う…ん…。いいけど…」 幸せな時間だった。キスってこんなに良かったか…?なんて乙女みたいな思考になるくらい。 そして時間は過ぎて1週間が来てしまった。 今日は朝から天気が悪い…。 「葵…」 「ん?何?」 「…なんでもない」 別れたくない。そう言い出すのが怖かった。 もし葵が嘘をついていたら、一目惚れが嘘じゃなくても冷めてしまっていたら…。 俺はここまで葵を好きになってしまった。 誰かを好きになるなんてあの時以来だ。 ザーザーと雨音が強くなってきた。 「ね、彼方」 突然呼ばれてビクッとなる俺。もしかしたら別れようなんて言われるんじゃ…と体が震える。 俺こんな弱かったっけ… 「俺さ、彼方のこと…」 「っ……」 「諦めきれねぇわ」 「っえ…?」 一瞬理解が出来なくなる。 「だから…彼方が好きだから1週間じゃなくてもっと俺と一緒にいてほしい…。ダメかな…?」 「っ…ダメじゃねー…」 「え、いいの…?」 「俺も葵の事好き…だから…」 俺たちは座っていたベッドに雪崩れ込んだ。 そして2人で抱き合ってキスをした。 激しくなる雨音に気づかないくらい夢中で。
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