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2周目

ーーずっと後悔している。 高校の卒業式、親友の友幸に話があると言われた。 夕方5時、いつものゲーセンの前で待ち合わせ。自意識過剰とかそういうのではなくて、おれにはその話が告白であるとどこかで分かっていて、だからこそ行かなかった。 友幸のことは嫌いではない。むしろ好きだし、そしてその感情は同性に抱くものとは少し異なる好きであるとどこかで感じてもいた。そう、だからこそ行かなかった。 あいつの気持ちにどう答えていいのか分からない。イエスと言って、そうして、どうなるのだろう。気まぐれかもしれないし、もう友達に戻れないかもしれない。 それが怖くて、おれは行かなかった。 ーーその翌日。 友幸が事故で死んだと知った。 * 「アキ、話したいことあるんだけど」 目が覚めたような気持ちだった。はっと息を吸って、顔を上げる。すぐ隣には友幸がいた。学ラン姿が懐かしく思えるのは……なんでだ? 「聞いてんの?」 「えっ、ああ、え?トモ?」 「なにボケっとしてんだよ。話あるから5時にいつものゲーセン前な」 驚いた。 タイムスリップ、とでも言うのだろうか。気づけばおれは、最悪の日の前日に戻っていた。不満そうな顔も、少し高めの声も、全部あの日の友幸で思わず熱いものがこみ上げてくる。 「は、話って?今じゃダメなわけ?」 冷静を装いながらおれは言う。不自然な態度なのは友幸も気づいただろう。やつは少しムキになって、ダメ、と子どもみたいに答えた。 「待ってるから。ちゃんと来いよ」 そう捨て台詞を残し、早足でおれの元から去って行く。あの日と全く同じだ。この後の結末をおれはよく知っている。あいつの葬式に出た記憶だって鮮明に覚えているんだ。 二度は、こめんだ。 おれは自宅に向かって駆け出した。どうしてタイムスリップしたのかは分からない。夢にしてはリアルだし、感覚もしっかりある。夢じゃないのなら、これは神様がくれたチャンスなのかもしれない。ならばおれがやるべきことはひとつ。 今度こそ友幸に向き合って、想いに答える。今度こそ友幸を失わない。 午後5時。いつものゲーセン前。赤い夕日に照らされながら、友幸は壁を背にして立っていた。その横顔はとても儚くて、消えてしまいそうで、また泣けてくる。 「トモ」 名前を呼ぶと、友幸はこちらを見た。とても久しぶりの感覚。名前を呼んで反応してくれる、そんな当たり前のことが苦しいほど嬉しい。 ここから先は、おれの知らない未来の話。 「来ないと思ってたよ」 友幸の言葉に、胸の奥がじりじりと痛みだす。ああ、こいつは、こんな顔でおれを待っていたのか。こんな、悲しそうな顔で。 おれが来なかった1周目の友幸は泣いていたんだろう。 「トモ」 「なに?」 「友幸」 「……アキ?ちょ、なんで泣いて」 知らぬ間に涙がぼろぼろ溢れ出して止まらない。友幸の声、姿、瞳。ぜんぶ、ぜんぶ、ここにあって、手に届く。 失って気づいた、なんて、おれはいつもそればっかりだ。それでも答えを手に入れたのだから、もう迷いはない。 「おれ、トモが好きだよ」 「……へっ」 友幸の目が大きく見開かれる。おれの心臓が飛び跳ねる。顔が熱い。喉が乾く。周りに聞かれたんじゃないか、そんなバカみたいなことを心配して、それでも友幸から目が離せない。 おれはトモが好きなのか、口にして改めて思う。好きで、好きで、どうにかなりそうだ。 「ほんとに……?」 「こ、こんな恥ずかしい嘘言う訳ないだろ!」 ずっと友人だった相手に告白だなんて、こんなむず痒いことがあるのだろうか。嬉しいとか好きだとか、そう言う以前に、怖くて恥ずかしくてどこか期待している。 でも、友幸がなにも言わないものだから、おれはいよいよ苦しくなってきた。もしかして、勘違いだったのか。いや、たとえそうだとしても構わない。伝えきれずに残された想いがどうなっていくのか、おれは痛いほど知っている。 「……夢みたいだ」 友幸の声がする。それはおれのセリフだと言いたい。本当に、夢みたいだ。 「オレも、アキが好きだ」 息をのむ。足元から力が抜けて、胸から溢れてくる熱い何かが体を支えていた。 「……とりあえず、歩く?」 男子校生2人、真っ赤な顔を合わせながらゲーセン前で突っ立っているのもそろそろ限界だろう。友幸の言葉にハッとし、おれはただ頷く。 夕日のオレンジ色に染まった道を2人で歩いた。見慣れた道なのに、何もかもが新鮮だった。ときたま友幸の手の甲がおれの手の甲を掠めたりして、なんかもう、それだけで泣けてしまうほど、嬉しい。 結局いつものように時間を潰して、最後は友幸を家まで見送って、その日は終わった。友幸は死ななかった。おれは最悪の未来を変えることができたのだ。 その日は興奮がさめなくて、あまり眠れた気がしない。目を閉じると友幸の顔だけが浮かんできて胸が痛くなる。よかった、これで明日からもあいつと一緒に居られる。それだけで、おれはこの先何日眠れなくても平気だろう。 ーーその翌日。 目的を果たしたのに過去から戻ってないことが不思議だったけれど、突然かかってきた元担任からの電話で理解する。 「今朝、友幸が事故にあった」

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