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おまけ・続有料彼氏・後編 (完)

帽子を手に持ちながら駅周辺の通りをぶらぶら歩いていると、いいにおいのする個人経営のようなお店を見つけたので、そこへ入ることにした。 中に入ってみると、内装は木のぬくもりがある感じで凝っていて、個室もいくつもあっていい感じ。 個室へ案内してもらい、メニューを開くと…創作料理屋なのか。パスタもあれば和食や洋食など色んなジャンルの美味しそうなものがあったが、値段は良心的だったのでちょっと安心した。 その中から目についた揚げ出汁豆腐やレンコンにチーズやお肉を挟んで揚げてあるものや、海苔で味付けしたうどんなど気になったものをいくつか注文。 優斗さんはお酒を飲むイメージだったから「お酒何か飲みますか?」と聞いてみたが、「んー…いいや」と返される。 (…もしかして、オレが払うって言ったから遠慮してるのかな) もしそうだったら、なんかすごく申し訳ない。 お金を払うってのは最後に言うべきだったなぁと思いながらメニューを一旦端へよけると、優斗さんが温かいおしぼりを手に取りはぁっと息をついた。 「楽しかったけど、やっぱ疲れたねー。夜までめいっぱいまわろうと思ってたのに…そんな体力なかったわ」 「ですねー…もうぐったりです。でもほんと楽しかったです。こんなはしゃいだの久々で。誘って貰ってほんとありがとうございました」 「いーえ。そう言って貰えると嬉しいよ。…でも青意外に絶叫ダメだった?結構怖がってたよね?遊園地誘ったら割と即答だったから平気かと思っちゃってたけど…ファストパスジェットコースターだけだったし…失敗だったかな」 「いえいえ!ちょっと怖いですけど、好きなんで!ファストパスあったからあんなにたくさん乗れたんで、ほんと感謝ですよー」 「そっか」 そう言ってオレもおしぼりを手に取ると、あったかくて自然とほっと息が出た。 それからあのジェットコースターの回転がやばかったとか、ジェットコースターの撮影ポイントはどこだったのかと思い返して話をしていると、徐々に食べ物が揃っていった。 「!このはさみ揚げ!美味しいですね!」 「ほんとだー。チーズがいい感じでとろけて美味いね」 料理はどれも美味しく、特にレンコンや揚げ豆腐などのサイドメニューがホントに好みの味で、今まで食べたその料理の中で一番なんじゃないかと思うほどだ。 …そして酒のつまみにも良さそうな味。 「…優斗さん、ホントに飲まないんですか?オレのおごりだからって遠慮しないで下さいね。むしろどんどん頼んで下さいね?」 そう伝えてみるが 「え?うん。別に遠慮してるわけじゃないから。ありがと」と笑顔で返される。 断られたので下手に勧める訳にもいかず、そのままご飯を食べ進める。 食べ始めて15分もすればほとんど食べ終わり、あとは飲み物と少しのサイドメニューだけになった。 「はー…お腹いっぱい。今何時だろ?」 そう言って優斗さんがズボンのポケットから携帯を取り出す。 「…7時50分。思ったほど時間経ってないや」 「そうなんですね?とっくに8時過ぎてると思ってました」 「オレもオレも。あ、そ言えばさっき撮った写真…見てこれ!壁紙にしてみた!」 そう言って携帯の画面をオレの方へずいっと向けた。 「え…!あ、ほんとだ!何やってるんですかー!」 そこに映し出されていたのは、ワンコと撮ったあの写真。 いい思い出にはなったが…自分の犬耳帽姿が収められているその写真を壁紙にされるのはやっぱり恥ずかしかった。 「はは、いいじゃん。あ、そうだ。青のに撮ってある分、オレに送ってよ。オレのも送っとくから」 そう言って優斗さんはすぐ携帯をいじり始めたので、オレも携帯を取り出し写真を表示させる。 「お、届いた」 「…オレも、届きました」 届いた写真を開くと画面いっぱいにポーズを決めたワンコと、その隣に写る優斗さんとオレ。 …有料彼氏の時のあのプリクラに映った姿とは違い、ありのままの自分で心底楽しそうに優斗さんと写っているそれは、自分のずっと憧れていた… 「…デートみたい」 「え…?」 口から出てしまった自分の言葉に、思わずはっとする。 「あ、スイマセン!遊園地の写真撮っただけなのに…デートなんて気持ち悪いですよね!スイマセン!」 自分と同じゲイ相手ならまだしも、女性相手に有料彼氏をやっていたバリバリノーマルな優斗さんにとって、今の言葉は気持ち悪いものでしかないだろう。 とんでもない失言に優斗さんの顔を見るのが怖くなり、瞬時に俯く。 今までの楽しさが頭から全部吹っ飛んで、サーっと血の気が引くのが分かった。 「……青。今日の、デートみたいって思ったの?」 「………すいません」 上手くごまかすこともできずに、ぎゅっと膝の上で作った握り拳を見つめる。 (どうしよう、どうしよう…) もしかするとこれを機に、優斗さんに縁を切られてしまうかもしれない。 頭が真っ白になりぎゅうっと目をつぶると… 「……謝んないでよ。青は今日だけかもしれないけど…オレはずっと、デートだと思ってたよ」 そんな言葉が降って来たのでゆっくり顔を上げると、目があった優斗さんがふわりと微笑んだ。 「……オレ、初めて会った時から青のこと好きだった。だから…青と2人で会えるのは、いつもデートだって思ってたし…青もそう思ってくれたんなら、凄い嬉しい」 もう一度繰り返されたその言葉にぎゅうっと胸が締め付けられる。 目頭がつんとして、涙がじわりと目に溜まるのが分かった。 それでもまっすぐ優斗さんを見ると、少し滲んだ視界の向こうで、優斗さんもまっすぐこちらを見ているのが分かった。 唇をぎゅっとかみしめてから、ゆっくりと開く。 「…オレがゲイだからって……流石にその冗談は、ひどいです」 優斗さんが言ってくれたその言葉は、オレが変な事言ってしまったから優しさで言ってくれたのかもしれないが…冗談でもゲイのオレにそんなことを言うなんて…正直、悲しかった。 今までにも何度か「無料彼氏になりたい」とか、「惚れて下さい」とかそういう会話はあったけど、どれも明らかに冗談て分かるものだったから苦しくなんてならなかったけど… だけどこんな真顔で、しかも好きだなんて…優斗さんはノーマルだからそんなことありえないくせに、オレをからかって遊ぶにしてもたちが悪い。 …自分のせいでこういう流れになったとしても、冗談だとしても…優斗さんにだけはそんな嘘は言って欲しくなかった。 悲しくて零れそうな涙を隠すように俯くと、ふぅと小さく息を吐くのが聞こえた。 「……冗談じゃないよ。本気だよ。青はさ、きっとすんなり信じてくれないって思ってたけど…オレってそんなに信用ないかな?」 真面目な声色が聞こえたのでもう一度優斗さんの方に視線を向けると、悲しそうに微笑んだ優斗さんと目があった。 (冗談じゃない…?まさか…) 「…信用…してないわけじゃないです。優斗さんは、1番信頼できる人だと思ってます。…でも、優斗さんがオレを好きだなんて…そんなはずないです。ありえないです」 そう言い切ったオレにすかさず「何でそう思うの?」と優斗さんが聞いてくる。 「だって…優斗さんはゲイじゃないし…女の子の有料彼氏で、NO.1で…すごくカッコよくて…優しくて…そんな凄い人がオレなんかを好きなわけないです」 そう伝えると、優斗さんは目線だけを俯けて、少し間をおいてから口を開いた。 「…青にとっていつまでも、オレが"有料彼氏"だってイメージが抜けてないんだろうなってのはずっと思ってたけどさ…オレは有料彼氏やってた頃も今も、特別な人間じゃなくて普通の人間だよ。 …今日の分のさ、切符とかチケット買ったりしたのは…青に払って貰ったお金を返したかったって言ったじゃん?オレはお金を返して青と対等になりたかったっていうか…青と同じ位置に立ちたかったんだ。 もちろんさ、お金返したからって有料彼氏だったのをなかったことにはできないし…有料彼氏があったから青と出会えたんだけどさ。青にオレをお金を払って会える"有料彼氏"じゃなくて、友達としてでもいいから、対等な人間に見てほしかった」 確かにオレは、何かにつけて優斗さんのことを「流石NO.1!」と思っていた気がする。 真っ直ぐオレの目を見て放たれるその言葉は、耳ではなく直接胸に響くような、ずしりとくるものがあった。 「……お酒も、ホントは飲みたかったけど…飲んでこういう話しても信じてくれないでしょ?。…今までも「青だけ」とか、「青の無料彼氏になりたい」とか…いっぱい口説いたつもりだけど、全然青は本気にとってくれないし…」 「え…」 (今までのも、全部本気だった…?) 会うたびに言ってくれていたあの言葉たちは、冗談ではなく、全部本気だというのか。 瞬きをしながら優斗さんをしっかり見るが、確かに彼が嘘をついてるようには見えない。 完全に冗談だと思って軽く流していた今までの自分や優斗さんの言葉を思い出し、顔が一気に熱くなる。 「……青が男とデートしてみたかったとか、好きになってもらったことないとか、そういう話をしてくれたことあったけどさ…オレはずっと、その相手がオレじゃだめかなって思ってた。 …オレは確かにゲイじゃないけど、女が好きってわけでもない。…好きになったのは、青だけだし。 オレは青と、恋人になりたい。…オレじゃダメかな?」 不安げな瞳で、それでも真っ直ぐオレに伝えてくれた優斗さんに、さっきとは違う感じで胸がぎゅぅっと締め付けられる。 「優斗さんが、オレを…」 ぎゅっと右手で左手を握りしめながらその言葉をかみしめていると、「…やっぱりオレじゃ信用ない?」と呟かれる。 「いえ!そうじゃないです!…信用ない、んじゃなくて…なんか、優斗さんに好かれてるなんて、信じられないっていうか…なんか、あの、夢みたいな話で…ビックリというか…」 気持ちを落ち着かせるように深呼吸をすると、グラスに残っていた氷が融けてカラリと小さく音をたてた。 「…だって、オレが男に告白されるってだけでも、夢みたいなのに…優斗さんみたいな、凄い人に…」 言葉にすることでじんわりとそれが本当のことなんだと、自分の中に沁みわたっていったが、すかさず優斗さんに 「…だからオレは凄い人間じゃないって」と否定される。 「…でもだって、優斗さんはすごいカッコいいし、優しいし…有料彼氏でもいつもNO.1で…ホントに尊敬してて…」 優斗さんが何と言おうと、オレの中では優斗さんは特別で、凄い人だ。 真っ直ぐ自分を見つめる優斗さんを見つめ返すと、自分の心臓じゃないみたいにすごくドキドキ跳ねた。 言葉が出てこず、少し沈黙の中見つめ合っていると、優斗さんがへにょりと笑った。 「…それは、あれかな。尊敬してるけど、恋愛対象としては見れないってことかな」 切ない顔をする優斗さんを見ていられず、慌てて否定する。 「え?!いや、そうじゃ、なくて…!」 そうじゃ、なくて… (でも、だったらどうだっていうんだろう…) 優斗さんはノーマルだから最初っから無意識にそう言う目で見ないようにしてたけど… それでも有料彼氏で初めて会った時から、誰よりもカッコよくて、優しくて、何も悪いところが無くて完璧で、一緒にいると楽しくて…ずっと、ドキドキしてた。 優斗さんは「そんな凄い人間じゃない」って言ったけど、でもやっぱりオレには特別で…というか、きっと オレが勝手に憧れて、尊敬して… 優斗さんを他の誰よりも特別に想ってたんだ… ぎゅっと手のひらを握りしめて優斗さんに向き合ってから、大きく息を吸った。 「…優斗さんに恋愛対象に見てもらえるなんて思ってなかったから、そう言うつもりで優斗さんを見たことなかったんですけど… でもよく考えたら、優斗さん以上に尊敬する人いません。優斗さん以上に好きな人っていません!多分、この先も、優斗さん以上の人はいないと思います!」 顔を真っ赤にしながらまるで宣言するかのようにそう伝えると、少しきょとんとしてから今度は泣きそうな顔で微笑んだ。 「…それは、青もオレのこと好きってことでいいのかな?…オレと、付き合ってくれる?」 「……好き、です。オレで良かったら、お願いします」 もう一度深呼吸してからそう伝えると、優斗さんがはぁあ…とため息をつきながらテーブルの上に突っ伏した。 数秒してから目だけ出すようにして顔を起こすと 「…どうしよう。すっごい嬉しい」 そう言って涙目でオレを見つめてきたので、信じられないくらい胸がきゅんってなって、胸の中が温かい何かで満たされていくのを感じた。 「じゃあこれからは、恋人ってことで…よろしくね」 「はい、よろしくお願いします!」 こうして有料彼氏だった優斗さんが、オレだけの彼氏になってくれました。 終   2015.11.22 「おはよう」 「…おはようございます」 翌日ぱちりと目を開けると、悲鳴をあげそうなくらいカッコいい笑顔が間近にあり、ドキリと不自然に心臓が跳ねた。 一気に覚醒した頭で体を起こし、あくびを噛み殺しながら軽く伸びをする。 (…朝目が覚めたら、昨日のあれは夢だったってことないよな) チラリと優斗さんに視線を送ると、彼はまだこちらを見ていたようでニッコリと微笑まれた。 「ねぇ青。今日は帰っちゃう前にちょっと出かけよう」 「え?はい」 「恋人になって、初めてのデートね!」 「……っはい!」 ベッドサイドに立った優斗さんに腕をぐぃっと引っ張られるようにしてベッドから立ち上がると、そのままの勢いで優斗さんに抱きしめられる。 「………っ」 「あー…すっげぇ嬉しい。めっちゃ好き。…今日はどんなに疲れても、時間ぎりぎりまでデートだからね」 抱きしめられたまま耳元でささやかれた言葉に、胸がじんとして、自然と目に涙が溜る。 (…幸せ、だなぁ) 優斗さんを想う気持ちが恋だなんて昨日まで考えたこともなかったのに…一度そうだと思ってしまったら、今までどうしてそう思わずにいられたのか不思議なくらい好きという気持ちでいっぱいだ。 (…明日の朝イチで帰れば講義には間に合うから…今日も泊まってきたいって言ったら、優斗さん困るかな…?) 大好きな人の胸に顔を埋めて、躊躇いながら口を開くと…今よりもっと強い力で抱きしめられた。

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