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第1話 弥代遊郭・5
「俺も数えで十になった時、ここに売られてきたんだ。その時付いた兄さんから同じことをしてもらってな。あの時は飴玉よりもずっと小さい金平糖だったが、生まれて初めて口にした甘味というものは、何年経っても忘れず覚えているものだ……」
「あああ、舌で触ると甘いのが広がっていきます! ずっと口に入れておきたい……」
「……お前はまず人の話を聞くことを覚えろ」
口の中で飴玉を転がしていると、ふいに風雅さんが真剣な顔になって言った。
「彰星」
「はい」
「ここはお前の生活を世話する場所じゃなく、お前が働く場所だ。働けば少しずつだが金がもらえるし、豪勢なモンじゃねえが飯も食わせてもらえる。お前はまず食って体力を付けろ。そのガリガリを何とかすりゃ、少しはましになるはずだ」
「風雅さんみたくカッコいい美人になれますか?」
「そりゃ無理だ。そもそもの顔のパーツが違うし、お前もうそれ以上背は伸びねえだろ。……でもまぁ、客の中にはお前みたいなチビが良いっていう変わり者もいるから、別に背に関しては悩む必要はねえがな」
ここにきてようやく、俺は風雅さんに「その質問」をした。
「俺達、お客さんと何をするんですか?」
「それは知らされてねえんかい」
ヒゲの男も、安宿で子供達に値を付けていた大人達も、お義父さんも、詳しいことは教えてくれなかった。ただ「男の相手をする」「客を取らせる」と言うだけで、具体的に何をするのかはさっぱり分からない。
風雅さんが呆れたように溜息をつき、咥えた煙草に火をつける。
「何をするかは客によって違う。男遊を一晩買って食事からゆっくり楽しむ者もいるし、短時間買ってセックスだけをする者もいる。まあ、両方に共通している目的は『男遊とヤる』ってことかな。分かんだろ、セックスの意味」
「……親戚のおじさんとおばさんが夜、布団でやってたことかなぁ」
「ああ、多分それだわ」
「それを俺や風雅さんが、お客さんとするんですか?」
「お前はまだやらなくて済むと思うが、まあそうだ」
やり方を知らないと言えば、風雅さんがにやりと笑って崩した脚を伸ばしてきた。
つま先まで整った足の親指が、正座をした俺の股間に押し付けられる。
「んっ、……?」
「ここ、刺激すると気持ちいいだろ。俺らはお客のここを気持ち良くしてやるんだ」
「……そ、それでお金やご飯がもらえるんですか?」
股間を足先で押しながら、風雅さんが笑った。
「馬鹿みてぇな話だよな。でも男ってのは、ここを気持ち良くするためなら幾らでも金を払うんだ。この商売は今も昔も、この先もずっと無くならねえ。客も男遊もお女郎も、何百年と同じことを繰り返してんのさ」
「あっ……」
風雅さんに押されている部分が熱い。足の指が蠢き、キモノの裾を割って更に中へと入ってくる。俺は飴の甘さが残った口を大きく開け、呼吸を荒くさせながら初めての刺激に動揺していた。
──こんなの、気持ち良いかなんて分からない。
「やっ、いや……風雅さんっ、やめて下さいっ……」
「早めに知っとけよ、この感覚。怖いことじゃねえから素直に感じとけ」
「こ、怖いですっ……! あそこが、変ですっ……」
「流石に精通はしてるよな? まだだったら引くぞ」
風雅さんは可笑しそうに笑いながら俺を見つめ、足の指を動かしている。裾から覗いた俺のそれは上向きに曲線を描き、ビクビクと脈動していた。その曲線をなぞるように下から上へ……風雅さんの足の親指が這う。
「あっ、あぁっ──!」
腰が震えて背中がぴんと反り返る。激しい電流が一度、二度……体中を這いずり回る。
「んっ……!」
そうして背中と同じく反り返った俺のそこから、真上に向かって勢いよく白濁液が飛んだ。
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