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第3話 初見世・7

 午後六時──いよいよ見世開きの時間になってしまった。綺麗に支度を整えた寿輪楼の男遊達が、大階段から一階に降りてくる。 「彰星、頑張れよ」 「しっかりね、彰星」  雷童さんと風雅さんはそれぞれのお客さんから予約が入っているため、今夜は男遊達と一緒に張見世には出ない。隣にいてもらえないのは不安だったが、代わりに一郎太さんが俺の手を握ってくれた。 「大丈夫だよ。落ち着いて」 「あ、ありがとうございます……!」  玄関に入ってすぐの所にある神棚の前に、ずらりと寿輪楼の男遊、男遊のお付き、客引きなどをする男衆(おとこし)、下働きのおばさん達が並ぶ。  俺は胸に手を置いて、男前の番頭さんが見世開き前の願掛けとして「チュウチュウ」ネズミの鳴き声を真似しながら塩を撒き、拍子木を打つのを見つめていた。番頭さんとは、楼主のお義父さんとは別で見世を取り仕切る人のことだ。  そうして願掛けが済めば、お義父さんが両手を叩いて声を張り上げる。 「さあ、今夜も稼いでおくれよ!」  張見世(はりみせ)は、客を待って座る男遊・お女郎を格子越しに客が吟味し、気に入った者を早い者勝ちで揚げるという仕組みになっている。少し値の落ちた娼楼の張見世では、格子の隙間から手を伸ばして「お兄さん、買ってぇ!」「旦那様ぁ!」と愛想を振りまき誘う所もある。  寿輪楼ではじっと座って待つだけだ。背筋を伸ばしてお客さん達をしっかりと見つめ、名前が呼ばれるのを待つだけ。 「さあ、今夜は新顔の男遊、彰星のお披露目だよ! 正真正銘の初物十八歳だ、旦那さん方、じっくりと若い体に男を教えてやって下さいよ!」  見世の前でわざわざ言わなくていいことを声高に叫んでいるのは、寿輪楼の紋が入った法被を着ている男衆だ。俺はもう恐怖で体が強張り、正座したまま身じろぎすることもできない。 「よし、買った!」  そうして恐怖や緊張を和らげる間もなく、実に呆気なく俺の「初めてのお客さん」が決まってしまった。 「彰星、お揚がりィ──!」 「落ち着くんだぞ、彰星」  一郎太さんの言葉に返事をすることも出来ず、俺はふらふらと立ち上がって張見世を出た。 「まあ、そこそこ可愛げのある顔をしているな。寿輪楼の男遊はハズレがねえから、初物にありつけたのはツイてるな」  俺を買った男は、いかつくて力の強そうな太った人だった。漁師をしていると言われてみれば、海の香りがしなくもない。  狭い寝間、オレンジ色の明かりの下。  素っ気ない口調で男が言った。 「それじゃあ、脱げ」 「……は、はい」  帯を解こうとするが、手が震えてなかなか解くことができない。焦れた男が俺を布団に転がし、乱暴な手で帯を解かれた。 「薄いなあ……胸も腹も、真っ平じゃねえか」 「す、すいません……」  キモノの前が雑に開かれる。今日のためにお義父さんが用意してくれた、紅い綺麗なキモノが簡単に剥ぎ取られる。俺の体を見下ろすじっとりとした男の目──怖い!

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