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第4話 運命の夜
「おっと、……」
裸足のまま沓脱に降り、大きく開いていた玄関から外へ飛び出そうとした、その瞬間。
「わっ」
硬くて柔らかいものに顔面がぶつかり、俺の「脱出」はそこで幕を下ろすことになる。
「どうしたどうした、素っ裸で。そのまま外に出たらおまわりに捕まるか、風邪ひくぞ」
「あ……」
俺がぶつかったのは背の高い男の人だった。見覚えのある焦げ茶の髪。きりりとした太い眉に、大きな二重瞼。
一ノ瀬堂の若旦那。
一ノ瀬天凱、その人だった。
「泣きべそかいてどこへ行く。可愛い顔が台無しだぞ、彰星」
「う、あ……」
犬の仔を撫でるみたいな手付きの、大きな優しい手。天凱さんは裸の俺がぶつかってきたにもかかわらず、驚いた様子を見せることなく微笑んでいる。
「うわあぁぁ……!」
その顔を見て何故か急激に安心し、俺は声をあげて泣いてしまった。
「あ、彰星……何やってんだお前、ったく、お前……!」
俺を追いかけてきた番頭さんが、膝に手を置いてゼエゼエと息をしている。
「……お客さん放ったらかして何やってんだっ、さっさと戻れ、彰星!」
「まあまあ、漸治 さん」
天凱さんが俺の頭に手を置いたまま、番頭さんに言った。
「見ろよ。彰星の頬、こんなに赤く腫れてる。……俺が知ってる寿輪楼の番頭は、初見世の男遊の顔殴って乱暴する客なんざ追い返してたと思うけどな?」
「な、……彰星。見せてみろ。その顔、客にやられたのか」
慌てて番頭さんが俺の顎を捕らえ、上を向かせる。鼻をすすりながら「そうです」と言えば、青褪めていた彼の顔がみるみるうちに真っ赤に変化して行った。
「あンの野郎……大事な商品傷付けやがって……! おいっ、彰星の客を楼から追い出せ! 治療費慰謝料を取るのも忘れんなよっ!」
へいっ、と番頭さんに指示を出された男衆が二階の寝間へと駆けて行った。
「すいませんねェ、一ノ瀬堂の若旦那。……で、今日はお揚がりですか?」
「そうだなぁ……そんじゃ、この彰星を頼もうか。一本でな」
「えっ?」
「支度はさせなくていいから、このまま部屋に連れてってもいいかい。あ、一応薄い夜着は一枚用意してやってくれ。俺にツケて構わねえからよ」
一瞬きょとんとした番頭さんが、「ええ、ええ。どうぞ」と部屋まで案内してくれた。
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