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TWINS.
隼颯(はやて)の自室に訪れるのは2度目だった。
少し古いカーペットの上に直に座り、買ってきたペットボトルの甘いジュースと、しょっぱいスナック菓子を摘んでだらだらと喋り、そろそろ場も落ち着こうかという頃に、周の体、肩をとんと突かれて押し倒された。微笑みに弧を描く唇が周の唇に触れる。親が出掛けているから。その為に部屋に来たようなものだからと抵抗もせずにいる周の制服のスラックスの履き口に隼颯の右手が伸びる。シャツを引っ張り出し、体温が締まった下腹部に触れた瞬間、周がぱちりと目を瞬かせた。
「…お前、…隼颯じゃないだろ」
「ーーー、」
周の鋭い目が、今まで隼颯だと思っていた男を見上げる。不覚を取ったと浅い溜め息を吐き出した周が隼颯ーーー隼人(はやと)の肩を押しやりつつ起き上がる。自分を押し倒した相手は抗うことなく身を起こし、眉を垂れて笑った。
「すごいね先輩。なんでわかったのさ」
「…隼颯は左利きだ」
短く言って刈り込んだ短髪を掻き上げる。危ない所だったと室内を見渡す周の視線がやがて閉じられたドアへと向かう。扉の向こうに人の気配があるか否かを察する能力はまだ備わっていない。だが、壁1枚隔てた向こう、同じ屋根の下に自分の恋人はいるだろう。
試すような真似をするな、と眉を寄せる周にふふ、と楽しげな息を逃してから隼人が立ち上がる。
親でもうっかりすると間違える程の顔立ちや背格好を見破る人間は少ない。それが利き手1つで見破られるとはずいぶんぬかっていたようだ。
「兄貴呼んでくるね」
「…ああ、」
生真面目そうな先輩を怒らせたくはない。
乱れた衣服もそのままに、兄の部屋から出ていこうとする隼人に周が顔を向けた。
「…キスも、隼颯の方が上手い」
にこりともせず、大真面目な声音に、もう一度背で笑った。
「ーーーだってさ、兄貴」
「……聞こえてた」
狭い廊下で鉢合わせた隼颯は目元を真っ赤にしている。
つい最近童貞を捨てたような兄貴よりキスが下手くそだったとは心外だったが、まだ勉強が足りなかったと隼人はさほど気には留めていない。入れ替わりの戯れを持ちかけた罪悪感はあったから、照れて伏せた顔、薄い色素の前髪に隠れた自分と同じ形をした瞼の上に口付けた。
「…何してんのさ」
「間接チュー的な?」
「馬鹿」
幼い頃の戯れそのままに笑う隼人に溜め息を漏らす。その様子に満足げに笑みを深めた隼人がひょいと右手の掌を差し出した。
「ん」
「…ん、」
右手と左手がぱちんと小さな音を立て、すれ違う。違う利き手のハイタッチを済ませた双子がそれぞれの自室へと戻って行った。
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