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#声を上げて泣けBL
「泣く時は声を上げて泣きなさい。そうじゃないと、誰にも気づいてもらえないよ」
そう言ったあのひとは、声を上げずに死んだ。
両親を亡くした俺に、優しく、優しく、優しくしてくれた人だった。
親代わりになったその人は、遠くとも血縁関係があるのだと知った時にはもう遅く、されど芽生えた感情を口にするか否かを逡巡している思春期のある日、その人は正しく渡った交差点でダンプの下敷きになった。
「——…前に、言っただろう」
駆け付けた白い部屋で、白に包まれ、機器に囲まれたその人は1度だけ目を開けた。力の無い目で俺を見上げ、困ったように眉を下げて笑う。
前に、とは恐らく親を亡くした直後の事で、まだ子供だったというのに声も上げずにぽろぽろと涙だけを落とす俺の頭を撫でて、その人は声を上げろと抱き上げた。
きっと自分は、やはりその時と同じような泣き方をしているのだろうと思うも、体は芯が通ったように凍り付き、そして喉から声は出ない。
掛けられた布から覗く肩がぴくりと揺れた。肩を持ち上げようとしているが、上がる筈もないということはわかっていた。困った子だね、と語った瞳が、じっと俺の目を覗く。唇だけが小さく動き、再び声は聞くことを叶わぬまま、やがて全てが静止した。指を握る。十分に残る温もりに、遠く思える現実に、追い付かない感情に、自分はもう泣いてはいないのだと気が付く。
「…だって、…見付けてくれたから、」
声を上げずに泣いていた俺を、貴方は見つけ出してくれたから。
誰にも気付かれることなく泣いていた俺を、貴方は見つけて拾い上げてくれたから。
いつも貴方は、声を殺して泣く俺に気付き、寄り添っていてくれたから。
——見付けて貰えなかったのは、貴方を想って泣く夜だけだった。
静寂の中に立ち尽くす。
意識の彼方で、これからも自分は、声を上げて泣くことは金輪際無いのだろうと考えては項垂れる。
重力に従って落ちた滴が、体温の抜けていく手の甲に染みを作った。
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