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onenight.

SNSで適当に夜の相手を探すような時代になってしまうと、所謂「治安の悪いハッテン場」などは廃れて然りだろうと見ている。だが、廃れた場所は廃れた場所に来るしかない男が存在するこを知っているのも、自分がこの場所を頻繁に利用する人間であるからだろう。人の寄り付かない公園の、更に人の寄り付かない古びた公衆トイレに足を踏み入れる。ろくに清掃もしていない屋内に臭いに顔を顰めつつ視線を巡らせた。壁にある落書きの中に埋もれるような携帯電話の番号や、通信手段に使ってくれと記されたIDを眺めながら奥へと進み、個室の中を覗き込む。人気は無い。小さく鼻を鳴らしてジーンズのポケットに手を突っ込み、また出入口へと向かう。薄汚れた電灯が頼りなく点滅している。夜風に身を晒すか否かの刹那、小さく砂利を踏む音がした。 「——…」 背の低い、黒髪の男と目が合った。三十代、ともすれば四十に手が届きそうな会社員。少なくとも自分より十は年上と思しき年の頃を適当に見立て、全身を眺め回す。手ぶらではあるが、清潔感のみが漂うようなスーツを纏っている。ポケットから指を出した。 「どうも。こんばんは?」 「…こんばんは、」 男が目を逸らす。いかにも気の弱そうな相貌にやましさが張り付いている。清廉すら表すようなスーツを身に付けながら、罪悪感と背徳感が見え隠れする様に本能が動いた。距離を詰め、若者らしく、年下ぶる様に小首を傾げて見せた。 「ここ、初めて?」 「……じゃ、…ない、」 男が口篭る。ここがどういう場所かは知っている。そう。呟くか呟かないかのうちに伸びた手が男の手首を捉え、半ば引き摺るように屋内へと連れ込んだ。 「——しゃぶれよ」 掴んだ手首を己の股間に導く。はっとしたように見開かれた目がすぐに逸らされ、そして顔全体にじわりと淫欲が滲み出す。汚れた床に、シミひとつ無いスラックスの膝が降りる。硬いデニムのジッパーに躊躇することなく掛かる指をじっと見下ろし、上がる唾を飲み下す。どこか焦らすような手付きでボトムの前が開かれ、現れた布地の形を辿るように指が滑る。中から取り出した雄に、男は従順なまま唇を寄せた。 暗い、ともすれば森の奥かと錯覚するように静かな公園の中にある建物に水音が響き、がらんどうのような壁に反響して広がる。自ら立てる水音は男の鼓膜をダイレクトに震わせている筈だろう。指が絡む根元から欲は徐々に立ち上がる。硬さを帯びるそれの先端を咥え、吸い上げられた。 「…っ、」 手練の歳上の男、と判断するには自分の経験値が足りない。見下ろす男の相貌には隠しようの無い淫猥さが広がっている。丁寧に切り揃えられた髪が男が頭を上下させる毎に小刻みに揺れ、額には汗が浮き始めている。その下、下肢に目を向ける。スーツのジャケットの前が割れ、スラックスに包まれた大腿の間が膨張していた。 「オニーサン、興奮してんの?」 膨らみを、スニーカーの爪先で押し込んだ。男の眉間に皺が寄るも、逃れる素振りは無い。 大腿に手を添え、むしろ音を聞かせるように陰茎に吸い付き、なぞり、鈴口に甘く歯を立てては咥内に溜まる先走りを飲み下す。綺麗な形をした口の端に、液体が線を引いて伝っていた。男は問い掛けには答えず、上目遣いに視線を寄越す。とろりと潤んだ眼差しに、屹立が確かに脈打った。 自分が年上の男に欲をしゃぶらせて欲情するタチであるのなら、きっとこの男は年下の男に命じられるままに成る事に興奮を覚える性質なのだろう。 生真面目で、気弱そうな会社員がわざわざここを利用する理由など知らなくて良い。自分には関係が無い。 年齢はおろか、互いに名前すら知らない。 ただ今晩、互いの欲を満たす相手に出会えたことだけに淡い感謝をするだけだ。 指を伸ばす。男の髪に触れる。自分の性質を知らせるように、ぐ、と男の頭を下肢へと押し込む。一度苦しげに眉間に皺が刻まれるも、男は離れてはいかない。上顎で亀頭を擦り、深く咥えさせられた熱を唇で扱く。スニーカーの下の膨らみが増す感触がある。乾く唇を舌先で舐め濡らし、上気して掠れる声を落とした。 「——立てよ」 指先に男の髪が絡まる。さらりとした質感と、顔を上げ、宣誓のようにもう一度熱に唇を寄せる男の目が欲でギラつく様に気が付き、密かに身を震わせた。 気怠げに腰を上げながら男は小さく金属音を鳴らす。拘束しているベルトを外しているのだと理解し、自らもジーンズを留めているベルトに手を掛けた。男は告げられるでもなく壁と向き合い、片手で下着ごとボトムをずり下げた。衣類の落ちるどさ、という音と共に、汚れた電灯の下に肌が露になる。興奮に吐き出す呼気が、壁に積まれた埃を微かに揺らしていた。 積極的であることは嫌いではない、というよりも面倒が少なくて良い。差し出される双丘に触れ、無遠慮に割る。奥にある窄まりに指の腹で触れただけで男が身を固くする様が伝わってきた。項垂れた後頭部の向こう側にある表情は伺えない。それでも、恐らく期待に満ちた顔をしているのだろうと勝手に想像しては、込み上げる生唾を飲み込んだ。 閉じた窄まりは難なく指を飲み込んでいく。二本、三本と増やした所で苦痛を訴える様子も見られない。男を受け入れることに慣れた身体だ。同居するのは被虐欲なのかそれとも単なる淫蕩なのかはわからない。この硬そうな男のそれを引きずり出すまで行けば今夜の交わりは成功だろう。頭の隅で考えつつ、乱雑に体内を掻き回した。 「っ…、は、ぁ、」 噛み締め、堪え切れなかった喘ぎが静寂の中に零れ落ちる。人は通るまい。聞かれたくないのなら、端からこんな場所に来なければ良い。聞かせろ、告げるように指を抜き、未だ解れ切ってはいない男の身体に男自身の口淫で育てた熱を押し当てた。 「ッ、まだ…、」 「…は?」 唯一、自分を制しようとする言葉だった。軽く振り返った男の目には既に水が浮いていたように見える。それでも、それまでも聞こえない振りをし、狭い入口に亀頭を埋め込んだ。 「——っ…!」 上着すら纏ったままの男の背が反る。男の腰を両手で抱え、ゆっくりと腰を押し進めつつ上体を倒し、背に胸板を密着させた。硬さが奥に届く頃、壁に触れる手に手を重ねて握り込む。脈打つ欲は更に熱い内壁に迎え入れられ、包み込まれ、締め付けられる。初めて間近にした男の欲情が如実に現れた相貌がどうしようもなく興奮を煽られた。この淫らな顔を昼間はどんな顔で隠して生きているのか。耳元に寄せた唇から、荒い呼気を吹き付けた。 「…なァ、どこが好き?」 揶揄するような軽い声音に男の項が震えた。耐えていた息を吐き、奥、と呟く声は濡れている。確かめるように、小刻みに奥の——更に奥にある入口を叩くと、男の膝からたちどころに力が抜けた。 「ぁ、アァっ…!や、ィ…、そこ、イィ…ッ」 塞ぐ事を止めたのか諦めたのか、低い喘ぎが壁に反響して落ちて来る。鼓膜を震わせる声はますます欲を加速させるばかりで、余裕を含んでいた筈の息が乱れる。戯れに男の欲に手を伸ばす。今にも爆ぜてしまいそうに勃起した形を辿るも、後ろだけで十分だろうと手を外した。 「恥ずかしくねえの?こんな所で、●●●●●にこんなガキの●●●突っ込まれてよがってて、」 態と、猥雑な単語を口にする。男根が一層締め付けられる感覚に、ああ、こういう事が好きな男なのだなと手応えを得る。口元に浮く笑みをそのままに、がつがつと腰を打ち付けた。 「ヒ…っ、あ、気持ち、ィ、…っ、●●●犯されるの、イィ…っ、」 悲鳴じみた声を上げてはいるが男の熱は萎えてはいないだろう。自ら口にする猥語がその証拠だ。無様なまでに揺れる屹立に小さく笑いを漏らし、ぐり、と奥の窄まりを亀頭の先で抉った。 「ダメ、ぁ、ア…っ…!」 「——っ、」 男から迸った体液が壁に叩き付けられた。粘着質なそれが壁を伝っていくと同時に、執拗なまでに締め上げられた欲望が男の中で爆ぜ、白濁を注ぐ。じんわりと広がる液体の感触を得ながら、ゆっくりと熱を引き抜いた。 空いた両手で双丘を割る。すっかり開き、散々擦られて赤く充血した後孔から、腹圧によって吐き出される白濁が断続的に床に落ちていく。秘部を覗かれている視線を感じているのか、男が吐精の余韻と羞恥とにぶるりと身体を揺らす。相変わらず逃げる様子の無い男の下肢に、欲が再び頭を擡げてしまいそうだった。 やがて、肩を上下させて息を整える動作が収まった。最後に一つ、大きく息を吐いてから男は壁から手を外す。自分の方を一瞥もせずに、薄汚れてしまった衣類を持ち上げた。 今夜の行為には金は介在していない。互いに欲を発散しあい、その行為が終われば用は無い。当然情も絡まない。インスタントで、気楽な関係だ。 それを示すように——再確認させるように、男は先程までとは打って変わったような冷めた横顔をしていた。 「…よく来んのか。ここ」 「……、」 ジーンズの中に、やはり用を終えた自身をしまい込みつつ横目を寄越した。男がちらりと自分を見やる。自分よりも年上の、静かで落ち着きの漂う眼差しに——この場に相応しくない過ぎった邪心を見抜かれたような気がして、不覚にも動揺を覚えた。 「…来るけど、」 男はすぐに視線を逸らす。雑な手付きで身形を整える様に、後は帰宅するだけなのだろうと察する。自宅は案外この近くなのかもしれない。自分と、同じように。 「…来るけど、同じ相手とはしない、」 「……」 決めてる。呟き、ここを訪れた時以来に正面に対峙した。虚を突かれて立ち尽くす様に男が軽く目を瞬かせてから小さく笑う。煤けてしまったことを除けば、すっかり「大人の男」の体をした男の手が伸び、呆ける頬を撫でて離れた。 「おやすみなさい。それじゃあ」 次の約束を禁じるものはなんなのか。それすら聞かせぬままに、「また、」の代わりの革靴の音が響いて遠ざかっていく。一瞬でも入り込んだ「情」は邪心の他無いだろう。青さを見透かされたような心地で、一人小さく舌を打った。

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