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第6話

 週末の日曜日。特にすることなくベッドでだらだらとタブレットをいじりながら、朝霞は静かな休日を過ごしていた。  昨日の夜は、隣人がどこかに出かけていたのかおかしな声は聞こえてこなかった。 けれど、先日耳にした隣人の言葉が気になってしまい、一人ネットを検索しながら過去の自分を思い出していた。自分の事をゲイだと認識した、しばらく後のことだ。  大学時代から今まで、ほとんど体型が変わっていない。身長は177センチと平均より少し高いくらいだったが、基本的に筋肉が付きやすい体質で、いわゆるがっしりとした体型だ。若い頃から、男らしい雰囲気だと言われてきた。  そんな朝霞が好きになるのは、自分とは対照に中性的な雰囲気の相手が多かった。そうなると必然的に朝霞がタチを務めることになる。そのことに特に不満はなかった。数年の間は。  自分の体格が良いこともわかっていたし、朝霞が興味を引く相手は細身の中性的な相手なのだから、まあ、普通だろう。そう思ってきたのだが、そうやって過ごしているうちに、ふと自分もされてみたらどんな気分なのだろうと思ったことがある。無論、そういう機会はなかなかやってこないだろうとわかっていたから、その後もずっとタチを続けてきた。  それを不満に感じるのか、と言えばそういうわけではない。今まで交際してきた相手のことももちろん好きだったし、入れる側も当然気持ちいい。だから、されてみたらどんな感覚なのだろうと思ったのは、ほんの一時期の間だけだった。  けれど、隣人のように、もし自分を責めてくれる人間がいたとしたら、確実に受け側になっていただろう。一度もしたことがないからこそ、興味があるのかもしれない。 夜になり、あたりが静かになってきた頃、また壁の向こうから声が聞こえ始める。 『ふふふ。……してるの? いやだなぁ……だよね』  途切れ途切れに朝霞の部屋に届く声は、今日はとても可愛らしい雰囲気だ。先日の男らしい声ではなく、小悪魔のような甘い声だ。声のトーンもまるきり違っていて、口調も異なっている。 『……して欲しいの? 可愛い……てあげようか? ふふっ……だね』  今度はどんなことを言っているのだろう。プライバシーを覗き見るようで、良くないことだとはわかっているのに、少し壁の方へと近づき聞き耳を立ててみる。壁に耳を当てるようにして静かに息を飲んだ。 『やだぁ。ほんと、エッチだよね。いっつもそんなことばっかり考えてるの?』 『本当?ボク、嘘つきな子は嫌いなんだ。本当のこと言ってみてよ』 『ふふっ。そうだろうね。君は、いつもそうやって恥ずかしいって言うけど、恥ずかしいことも大好き、だよね?』 『もっと、苛めてほしいって思ってるんでしょ?』 『ボクにどんなことされたいって思ってたの? 教えてよ』 『素直に言えたら、やってあげる。言えないの?』  口調は優しくかわいい。けれど、隣人は少しずつ相手を煽るように話す。受けている相手の声は朝霞には聞こえないが、想像は出来る。きっと相手は恥ずかしがりながらも、隣人にどうしてほしいのかを訴えてしまうのだろう。 『いいね。じゃあ、今からやってあげるよ。ゆっくり服、脱いでってごらん?』 『あー、ダメダメ。もっといやらしく、ボクに見られてるんだって意識してみてよ。見ててあげるからさ。君がいやらしくボクの事を誘いながら、脱いでくとこ』  ――ああ、もう、聞いてられないっ。  聞いてはだめだと思うのに、聞いてしまってから後悔した。聞きながら、背筋がゾクリとして忘れていたされてみたいという欲求が芽吹いてしまう。  隣人は時に優しく、時に強く相手を責めていくのだろうか。全く違う責め方に胸が高鳴った。熱を持ち始めた自身の雄に手を絡めると、隣人の声を思い出しながら自らを慰める。  あんな風に焦らされて、この様を見られたとしたら、どんな気分なのだろうか。壁に耳をつけて聞いた二回の隣人の言葉責めが朝霞の想像を掻き立てる。そうなると、自身の雄を擦る手を止めることなど出来なかった。 「……くっ……っッ……はっ……ぁ」  隣人の声と共に、自らの恥ずかしい様を頭の中に描いたとき、自分の手の中に熱いものを放った。  ――何やってんだ……。  放った後の罪悪感は強烈だった。しているときはそれに集中しているから良かったものの、壁に耳をつけ、隣人の声を盗み聞きし、自慰行為をしてしまうなんて、情けない。  小さくため息をついて、汚れた体を洗い流した。

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