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今日は雲が多いから、もしかしたらその雲の内のどこかに保さんがいて、俺達を見下ろしてハラハラしているかもしれない。
俺の決断を、良くは思っていないかもしれない。
でも、俺はこれを選んだ。
「この荷物で最後だ」
引っ越しなんて慣れない作業に、俺はもうくたくただった。
「少ないですね」
「男の引っ越しなんてこんなものだろう」
「服」と書かれた最後の箱を中に入れ終えると、休憩がてら庭に置いてある簡易椅子に二人で腰かけて庭を眺めた。
今はちょうど、白い花が多く咲いている。
「…綺麗だな」
「はい」
保さんが愛する人に捧げた薔薇は今日も燦然と咲き誇る。
何の憂いも、
何の悲しみもないまま、
死者の慰めの為でもなく、
生者の拠り所でもなく、
何にも囚われないまま、
これからの未来を残すために、花をつけ、咲き続けていく―――――
END.
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