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 話を聞く立場の俺は急かすこと出来ないまま、消えそうになる言葉を忍さんが見つけるまでじっと口を噤むことにした。 「………」 「―――君は、怒るかもしれないが、その   愛おしいと、思うんだ」  愛おしい?  何かの呪文のようにエコーを伴って頭の中でその言葉が響く。  聞き馴れなかったその言葉を、尋ね返せば忍さんはもう一度言ってくれるだろうか? 「  今、なんて?」 「あ、いやっ忘れ…… いや、……違う、それじゃあ駄目なんだ………   私は…君が愛おしい」  俺よりだいぶ年上の忍さんが、小さく頼りない子供に見えた。  感情の乏しいと思っていた顔が朱に染まって、引き結ばれた唇は真っ赤だ。  まっすぐ俺を見る目の真摯さは、思わず身が竦むほどだ。 「君が誰かの物になっていると考えただけで頭が真っ白になって、あんなことをしでかしてしまう程……私は、君の事が愛おしくて堪らない。君の、笑顔が見たい。君の瞳に映りたい。    ここにいる理由は、……それでは不十分だろうか?」  脳みその中心で爆弾でも爆発したかのような衝撃に、俺の思考は途中から考えることは放棄してしまって…  擦り潰された理性を乗り越えて衝動だけが俺の腕を上げさせる。 「―――じゅ、    十分です」  俺が回した腕に込めた力の分だけ、忍さんの手に力が籠った。  しっかりと抱き留めてもらえる感覚があるのに、どうしてだか体中がふわふわと浮き上がって…  飛んで行けるんじゃないかって、気分になった。

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