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第1話 天国か地獄

 こんな自分を愛してくれる。   少年は彼を幸せにしたいと強く思った。   どんな女よりお前なんだと言ってくれた彼を。  どうしたら幸せになる?  あなたはどうなったら幸せ?     彼にそう尋ねたら「お前がいればいい」そう笑われて、死ぬほど幸せだった。  優しく愛される夜に、愛し返す夜。  身体の奥深く、彼を求める。  恋人を無邪気に求め与えられた。  幸せな夜。  彼は美しい作品を作る芸術家だった。  広く知られさえすれば、彼は有名になるだろう。   少年は思った。   それほど身体が丈夫じゃない彼にこれ以上苦労してほしくなかった。    そんな少年の前に悪魔のような男が現れ囁いた。  その業界で力を持つ男。  傲慢で何でも手に入れる男。   少年の身体を好きにさせてくれれば、自分のところに来れば、彼を有名にしてやると。   そうでないならば、彼を苦しめ困らせると。  二度とこの世界で浮かび上がれないようにしてやると。  その指を折り、美しい作品を作れないようにしてやる、と。  少年は悪魔に身体を与えた。  悪魔の力は知っていたから。    そうするしかなかった。  泣きながら少年は悪魔にだかれる。  悪魔と共にベッドに上がり、服を脱がされた。  痛めつけたりはしない、気持ち良くしてやると泣いてる少年に悪魔は囁いた。  脚を開けと言われ、泣きながら開いた。  恋人だけしかさわらせたことのない、他の誰にもふれさせたことのない性器を舐められた。  味見するように。  悪魔は囁く。  大丈夫。  あの男でなくてもお前はイケる。  濡れそぼり、勃ちあがったそこを舐めながら、そうだと示された。  恋人がしてくれなかったことを教えてやろう。  お前の身体はもっと淫らになれる。  悪魔は言った。  熱い舌が穴を舐める。  そんなことは恋人はしなかった。  少年は泣いた。  泣いたけれど、感じていた。  悪魔の舌や指は、淫らさを知り尽くしていたから。  舐めながら指を入れられ、性器を扱かれる。  弱い場所を知られ、そこばかりを狙われた。    ただ快楽を求めるだけのセックスを、悪魔は知り尽くしていた。    悲しいことにそうだった。  悪魔の言うことは本当だった。  少年は恋人の名前を叫びながら、悪魔のに舌や指にみだされ、それでも感じ、イったのだ。  何度も何度も。  欲しいか、そう聞かれた時は、何度も何度も頷いた。  誰に抱かれているのかはわかっていたのに。  でも、身体を深く埋めてほしくてたまらなくなっていた。  悪魔は嬉しそうに、少年を蹂躙した。  「オレのものだ」  そう笑って。  優しい恋人はしないような、乱暴な突き上げや、奥までこじ開ける強引さ。  もっと欲しい欲しいと懇願するまで身体をひらかれた。  でも、少年は恋人の名前を呼び続けた。   イくたびに。  悪魔はその度にさらに激しく誰が抱いているのかを教え込んだ。  思い知らされて、それでも、その名をその夜叫び続けた。   悪魔が少年の名を呼び続けるのとは反対に。  少年は彼の元を離れ、悪魔の元に。  毎夜その白い身体を悪魔に開く。   淫らさを教え込まれ、夜の奥深くに咲く花になる。  悪魔に淫らに散らされる。  そのためだけに咲く花として。  甘く泣かされ、今は悪魔の名前を呼びながらイく。   恋人は少年の裏切りに深く傷付いた。  いなくなったから。  二人並んで歩く姿に、唇を噛んだ。  だが彼は成功していく。  その影に悪魔の助けがあることは知らない。   悪魔は少年に夢中だった。  毎夜、舐め、むしゃぶりついて、何もかも忘れて少年に腰をたたきつけ続けた。  愛してる。  最初から愛してたんだ。  オレだけのものになってくれ。    深くを犯し、少年が感じるところの全てに奉仕する。    少年は腕を広げ、脚を絡め、悪魔の全てを受け入れる。  絞りとり、蕩けさせ、溺れさせる。  少年も今では悪魔の身体の全てを知り尽くしていた。  どうすれば喜ぶか、感じるか。  悪魔は、もう、少年の虜。  何よりも、愛していると微笑めば、哀れな悪魔は何もかも忘れて少年にすがりつく。     少年はある夜、彼の元へ帰ってきた。   ただいま。  少年は言った。  彼は少年を冷たく見つめる。   裏切った恋人だから。  もう離れない。    少年は言った。  何を今さら。   彼は少年を嘲笑う。    少年はふしぎそうな顔をする。  二人を引き裂いた悪魔はもういないよ。   笑顔で少年は言う。   あなたの元へ帰るため、僕は頑張ったんだよ、と。   少年は悪魔を殺したのだ。  愛してるよ、と囁きながら。  悪魔は泣いていたから、わかっていたのだろう。  愛されてなどいないと。     殺すための手段よりも、愛されないことが悪魔を殺したのだと少年は知っていた。    だから、どうだとも思わないけれど。  完璧だよ。    悪魔のものは全て今は僕のもの。  悪魔が約束した以上のものがある。    あなたがほしいものは全部あげる。  もう悪魔は死んだ。   絶対にバレない。   だから大丈夫。    少年は艶やかに微笑んだ。  彼は驚愕する。  少年が自分から離れた理由も、  自分の成功の理由も、少年が悪魔を殺したことも今知って。  帰りたかった  少年は彼にだきつく。   振り払うことができないのは決して逃がしてはもらえないだろう恐怖のためか。     あなただけが全て。  少年が囁く。  そう囁かれる。  そこにある戦くような甘さのためなのか。  彼は少年を振り払えない。  振り払えないのだ。  愛してる。  そんな言葉に、白い身体へと伸ばしてしまう指は自分のものなのか。  それすらわからない。  唇を吸い、舌を絡める。  そこからはもう、止めることなど出来ない。  甘い身体を貪るだけだ。  あなたが欲しかった。  そう言って、擦り付けられる身体の滑らかさ。  胸を吸えば上がる声の甘やかさ。  舌で溶ける乳首を心ゆくまで味わいはじめる。  過去よりも、悪魔に育てられ、淫らに育った身体の甘さは脳を溶かす。  わからない。  わからない。  ただ、甘くて熱い身体がある。  自分を欲しがる魂がある。  それに狂う。  ただ、わかっていることはある。   死ぬまであなたを離さない 。  少年が言う。  その言葉は事実だと言うこと。  死ぬまで少年は彼を離さないだろう。  何があっても。   そこは地獄か天国か。   地獄のような天国か。  天国のような地獄か。  それは彼だけが知ることになるのだろう。   END

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