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第1話 生葬
「帰ってくるから」
彼は囁く。
青年の腕の中で何度も。
青年は名残惜しさに何度も何度も彼を貫いた。
もうすっかり自分のための場所になったそこを。
形も自分のモノと同じ形に馴染んだそこを、忘れさせないために、さらに奥まで犯した。
彼の白い身体がつま先立ちになり、反る。
浮き上がるようになって感じ、震えている身体を、さらにその奥をこじ開けてやる。
この舌を忘れないようにと、散々嬲った濡れた乳首もピンと尖り、先の穴までほじるようになめてやった性器もまた反り返って自分から濡れている。
中で感じてここを立ててイき、ここで感じて中でイく。
いやらしくて、可愛い生き物に彼はなっていた。
すすり泣いて、感じるだけの。
いつもなら「もうやめて」と泣く彼が、すすり泣きながらもしがみついてくるから、ますます止めることなどできなくなった。
深くまで入り込んだ奥の部屋で、ぐぽぐぽと何度も出し入れして、こんな奥まで自分のモノなのだと教えこんだ。
奥、好き?
聞いた。
問いの答えは痙攣して、止まらない身体。
締め付ける中が教えてくれた。
殺して・・・もっと殺して・・・
くし刺しにして殺して
そう泣かれてたまらなくなった。
あなたのだ、もっとあなたのにして
そう泣く彼を押さえつけ、殺すつもりで貫いた。
快楽だけではない悲鳴があがる。
こんな風に抱いたことなどない。
でも、自分だけのものにするために殺したかった。
彼は気絶し、また引き戻され、でも、何度もイった。
俺のだ
そう青年も叫び続けた。
何度も放ち、自分のものだと確かめた。
全身に、自分の痕を深くのこす。
噛み、吸った。
あんなに嫌がる吸い跡も彼は今日ばかりは嫌がらなかった
明日彼はこの土地を出る。
夢を叶えるために。
止める気はなかった。
夢をみている彼が好き。
それに、彼とは違う自分の夢はこの土地にある。
それでも信じてた。
それでも二人はつながっていられると。
愛してる。
互いに何度も繰り返した。
数年が過ぎた。
数ヶ月ごとには帰ってきた彼がもう半年は帰って来ない。
とうとうメールも電話も返事がなくなって、不通になった。
青年はたまらずに都市へ向かう。愛する彼はどこ?
何があった?
慣れぬ都会をさまよい、青年は彼を見つける。
華やかな人々に囲まれ、その中で誰よりも光輝く彼に。
美しい。
でも、彼は青年の彼じゃない。
青年は驚く。
彼も青年を見つけ驚く。
二人はたくさんの人々の中で時間を止める。
重ねた時間が流れ、彼は懐かしさに青年に自分から手を伸ばした。
華やぎ煌めく硬質に輝く人達の中から、優しく暖かな色が柔らかくくすむ、青年に。
暖かな色。
その暖かさは知っていた。
青年はのばされたその手を掴む。
そのままその場から彼を連れ出してた、彼は何も言わわずについてきた。
そのまま安いホテルのベッドに押し倒してた。
輝く人々、そして、彼の側に当然のように立っていた美しい男、明らかに成功者である男についても、彼は何も言わない。
その肩にまわされた腕の中から彼を連れ出してきたことについても。
青年も聞かない。
美しい服を剥ぎ取れば、何もかもがなくなるかのように、彼から服を剥ぎ取っていく。
確かに、見知った白い身体はそこにあった。
抱いて、余さず舐めて、触れた身体はそこに。
言葉のない夜。
前とは同じではない夜。
彼の身体は、知っていたはずの彼の身体ではなくなっていた。
キスをすれば、キスされなかがらその指は当たり前のようにこちらの耳を愛撫してきた。
咥えてやれば、腰を揺らして、自分で淫らに胸を弄り声をあげる。
あんなに恥ずかしがってしてなかなかしてくれなかったのに、喉の奥まで青年のモノを咥え、自ら後ろの蕾を解していく。
知らない夜の、知らない男達の匂いがその身体には染み付いていた。
淫らな、知らない技法で、彼は青年に応えてくる。
そんな舐め方、咥え方、舌遣い、
それは誰かとの夜の証しだった。
いやらしくて、悲しくて、つらくて、気持ちよかった。
悲しい気持ちになりながら、瞬間凶暴さにとらわれ、青年は喉の奥を強引に犯す。
えずく彼の苦しむ顔に、苦しみそれでも興奮し、もっと苦しめるために押し込んだ。
苦しむ顔に、泣きながらそこで放つ。
そんなことはしたことがなかったのに。
むせる彼を抱きしめる。
でも、彼はイっていた。
そんな酷いことをしたのに、それでもイける身体になっていた。
身体はすっかり変えられていた。
それでも苦しめてしまったことが悲しくて、泣く
愛しくて壊したいと思ったことはあった。
でも、これは違う。
壊して消し去りたい。
もう愛する人がいないから。
髪を撫で、昔はしなかった甘い人工的の匂いの奥に、彼そのものの匂いをさがす。
首筋に顔を埋め、その匂いをみつける。
彼が求める。
前と同じ声で。
「挿れて・・・」
だから、そうした。
前のように。
最後に触れたのは半年ほど前なのに、遠い昔のよう。
その半年は彼をこんなにも変えていた。
淫らに彼の腰はうごめき、青年のモノを搾り取ろうとする。
もう、そこは青年だけの形ではない。
青年の唇の中で暴れる彼の舌は、知らないいやらしさで、口の中を舐めまわす。
ゲームのようにセックスを楽しむ事が今の彼にはできるのだとその身体は教えてくれる。
必死で青年にしがみついていた頃が嘘のように。
ふと撫でた脚の付け根の肌に彫られた、知らない名前。
今彼の側にいる人の名前なのだ。
許したのだ。
そこに消えない印をいれることさえ。
青年は泣きながら彼を抱く。
もういない人を探して。
どんなに深く入っても、奥まで犯しても、その人はいない。
大声で泣き、貫いていく。
彼も泣いていた。
二人で泣いた。
もういなくなってしまった人を思って。
青年が愛した彼。青年を愛した彼。その人はどこにももういなくなってしまったから。
美しい夢。真実だった言葉。全ては消えてしまった。死に絶えた。
泣きながら、苦しみながら、青年はそれでも彼を抱いた。
全く違ってしまった身体を。
愛した彼に似ているだけの他人を。
朝が来て、彼が立ち去るのを青年は見送る。
激しすぎる行為の後に彼は立つのもやっとだったが、手はかさない。
ここにいるのは愛した人じゃない。
美しい夢の残骸でしかない彼を。
「愛していた」彼は言う。
その言葉は虚しい。
もう死んだ人の言葉だから。
「愛している」
青年はいなくなってしまった彼に言う。ここにはもう存在しない彼に。
彼が顔をクシャクシャにした。
それは美しく意味のない顔でしかなかった。
青年は傷ついた心を抱えて故郷に帰る。
青年のその土地での夢はまだいきている。
そして、愛もまだある。
たとえ相手が生きながらにして亡くなってしまったとしても、まだ愛は続く。
この世界にもういなくなったとしても、それでも愛は続く。
もういない彼は、それでも、青年の中にだけはいる。
愛してる、その人に向かって青年は愛を囁く
おわり
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