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第1話
一体、どこでしくじってしまったのか。
と、外山輝央(とやまてるお)は自身の家で1人、考えていた。
「もし、違っていたら悪いんだけど」
「うん」
「テルって俺のこと、あんまり好きじゃないでしょう」
ある日の仕事終わり。
外山は同窓会で再会して、社会人3年目からつき合っている中谷洸文(なかたにひろふみ)からの電話に出た。そして、「自分のこと、好きじゃないでしょう」と軽い調子で口にされる。
「そんなことは……」
「そんなことはない? まぁ、確かに嫌いって訳でもないんだろうけどさ」
「……」
「まぁ、あまり女々しくなるのは俺としても避けたいんだけど、3年近くつき合ってみてさ。恋人って感じがしなくて。恋人どころかセフレ、いや、最近じゃあ、それ以下って感じで。 だから……」
「別れろってこと?」
「うん、早い話が」
中谷は宣言した通り、できるだけ女々しくならないようにさっぱりとした様子で言う。ただ、明るく聞こえる中谷の声が僅かに震えている。
それが何を意味しているかは分からない。
だが、中谷が別れを切り出した以上、外山として中谷にしてやれることはそれを承諾することだけだった。
「分かった。3年間、ありがとう」
何とか、それだけ言うと、外山は中谷からの通話を終えた。
3年近く。
正確に言うと、2年と11ヶ月と7日間、つき合った中谷に別れて欲しいと言われたのだが、何が原因だったのか。
そもそも、中谷が好きで好きで堪らないというよりは男同士でも構わないと、性の志向が合っていたからだったのだが、つき合ったのは正しいことだったのか。
確かに、もっと最善を尽くすことはできたかも知れないが、いつも考えうる最良の選択をしてきた筈だ……と外山は思うと、中谷の意思を承諾し、中谷と別れたその日の夜、彼の連絡先を全て消した。
同僚の『中田清光(なかたきよみつ)』の後にあった中谷洸文の名前は跡形もなく、消えてしまい、『な』のアドレスには中田だけが残った。
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