2 / 2
第2話 夜の歌
・・・完全にイカれとる
青年は思った。
ソイツは狂気をまとっていた。
目が夜に光る。
瞳孔が開いているのだ。
クスリなのかと思った。
それか、クスリがなくてもイかれている人間か、だ。
そちらの方がヤバいことを青年は知っていた。
暗がりに引きずりこまれた今、恐怖感は最大に達していた。
ネクタイを掴まれ、顔を近付けられた。
猛獣のように男は美しかった。
そらすことを許されない目。
整った造作の唇は残忍な微笑を浮かべていた。
「車は弁償します・・・」
青年は必死で言った。
なんでこうなったんや?
何で何で何で?
青年にはわからない。
ソイツは闇に光るようにみえた。
纏うオーラがそうさせていた。
ただ、それは毒のある生き物が華やかに危険な生き物であることを示すような、そんな種類の光だった。
近づいてはいけない警戒色。
でも、青年は自分でソイツに近寄ったわけではなかった。
近付きたくて近付いたわけではなかった。
自分より少し年下に見えるソイツにただ怯えていた。
連れ込まれた暗がりは、表の繁華街の鮮やかな光がわずかにおちてきて、その光はソイツを浮かびあがらせていた。
綺麗な男。
でも、危険な男。
見るだけで分かった。
絶対に青年が自分からは近づかない種類の男だ。
「かまへん、どうせ、俺のやないんや、あの車」
ソイツは囁いた。
「だから別に弁償はいらん」
ソイツはネクタイをひっぱりさらに顔を近付けた。
綺麗な顔がすぐ前にあった。
キラキラ楽しげにその目に光るのは狂気だ。
「じゃあ、許してくれますか・・・」
青年は同じ位の背丈であり、明らかなに武闘派ではなさそうな体格であること、取りあえずソイツが笑っていること から、暴力から免れることをわずかに期待した。
いや、車の運転席のガラスを叩き割られて引きずりだされてここに連れてこられた時点でバリバリの武闘派だ。
暴力ですめばそれでもまだ幸運なのかもしれない。
「・・・いや、許さへん。お前で遊ぶんや」
男は笑った。
後頭部を掴まれ、キスされた。
壁におしつけられ、後頭部を掴まれて唇を合わせられていた。
舌が口の中に入ってきた。
信じられない行為に青年は思わず真っ赤になった。
ねっとりと舌が絡められた。
淫らに動く。
ソイツのしなやかな身体が、すりつけられる。
キスの淫らさと、恐怖とで頭がぼんやりしてくる。
綺麗な男に身体を密着されていることにも、混乱する。
だから、自分がソイツの舌応えていることにも青年は気づかなかった。
キスの合間に男は笑った。
指が男の股間に伸びる。
掴まれた。
「堅なっとるやん・・・」
ソイツは楽しげに言った。
青年はますますます混乱する。
俺は、こんな時になんで、しかも、男相手に勃ててんねん
また唇を塞がれる。
その舌は淫らで、劣情を煽る。
青年は震える腕で男を抱き寄せてその舌を味わっていた。
あかん、これは毒や、毒やのに。
今は青年がソイツの後頭部を掴んでいた。
舌で奥までその口の中を必死で貪っていた。
すりつけられた身体を抱き寄せ、もっと密着させようとしていた。
ソイツの指が、青年のズボンのベルトを外し、チャックを下ろす。
そして、もう立ち上がっている青年のものをしごきはじめる。
青年はソイツの口の中で呻いた。
キスも指も淫らで。
下腹部にたまった熱は出されることを望んでいた。
唇を離して、肩で息をする。
快感におかしくなりそうだ。
ソイツが自分のシャツのボタンをはずしていく。
派手なシャツの下は素肌で、白い肌と淫らな乳首がみえた。
赤く尖った乳首の片方には、小さな金の輪がつけられていた、それがイヤらしさをましていた。
片方の手で青年のものをしごき、もう片方の手でソイツは自分の乳首を弄りはじめた。
白い指が、赤く尖った乳首を摘み、まわしていく。
喘ぎ 、快感に身体をしなやかに蠢かす。
それはあまりに淫らで。
ソイツは喘ぎながら青年のものを扱く。
その指の巧みさに青年は呻く。
すぐそこにあるのは、ソイツが弄る淫らな赤い乳首。
舐めたい。
そう思った。
小さな金の輪の貫かれた場所を輪ごと口にふくんで味わいたかった。
青年は戸惑う。
これは男だ。
男なのに。
僕は欲情している。
あまりに淫らに指が動いた瞬間、青年はうごいた
「あかん!」
青年は叫んで、ソイツを突き飛ばした。
でも、もう、青年は限界だった。
とにかくださな・・・。
それしか頭にない。
青年は自分のものを自分で扱く。
脳裏にあるのは、淫らなソイツの姿で、ソイツの指の感触で。
その姿や感触は、自分でしているにも関わらず、思いもよらない快感を青年に与えた。
出すときに、思わず叫んでしまうほどの。
目の前で、自分でしごきはじめ出した青年を、ソイツは目を丸くして見ていた。
「・・・俺で抜いたやろ、お前。ほんなら、大人しく、俺に出させたらええやないか」
ソイツは面白そうに言った。
青年の突然の行動に興味を持ったらしい。
「・・・あかん、こんなんあかん。あかんのや」
青年は出したおかげで頭がやっと冷静になってきた。
そして、冷静になった分恥ずかしさを覚えて、真っ赤になって自分のモノをズボンの中に閉まった。
「人にしごかせといて何を今更恥ずかしがっとんねん」
ソイツは笑う。
いや、あんたが勝手にと思ったが怖いので言わない。
興味が勝ったのか、凶暴さ淫らさは 、息をひそめ、面白いものを見るように目をキラキラさせていた。
剥き出しの白い胸と乳首は相変わらず男だというのにいやらしくて、青年は震える指でソイツの服のボタンをとめてやって隠した。
こんなん、危なすぎる。
ソイツはますます目を丸くしながらボタンを止められるていた。
「とにかく、ダメや、こういうのはあかんのや。あんたのことは知らんし・・・あんたとする理由が僕にはあらへん」
青年は必死でいった
外国の言葉を聞いているような顔でソイツは青年の言葉を聞いていた。
「する理由て。気持ちよかったらいいやないか」
不思議そうにソイツは言った。
「あかん、だめや、そんなん。いくら気持ちいいからって人間を道具に使うんは僕はイヤなんや」
青年は分かってもらえないだろうと思いながら言った。
ソイツは何を言っているのかわからないと言った顔をしていた。
「・・・とにかく、僕がこういうことするには、気持ちいいから以外の理由がないとあかんのや」
青年は出来るだけわかりやすく言った。
ソイツは笑った。
その笑顔だと、普通の、そう、青年と同じ20代の若者のように見えた。
「お前、おもろいやんけ。そうか、お前には理由がいるんか・・・わかったわ」
ソイツは頷いた。
解放してもらえるのかと思った。
「でもな、お前は出してすっきりしたやろうけど、俺はまだやで。まだここが疼いとる。責任とれや」
またネクタイを掴まれる。
手をつかまれ、ソイツの股間に持っていかれた。
確かに勃っている。
これがつらいのは先ほどの自分からもよくわかる。
「ご自分で・・・しはったらよいかと」
青年はおろおろ答えた。
「アホ、自分で出して気がすむなら、最初から車の窓割ってここまでお前を引きずり込んでしようとすると思うか」
ソイツの理屈はソイツなりには通っているのだろう。
「・・・俺は一人ではイけんのや」
男は綺麗な顔を近づけて言った。
ドキリとした。
「お前が理由がないから俺とシたないのはわかったわ、でもな 、お前は俺で気持ちよう出しとんねん。俺のちんぽが疼くんはどないしてくれんねん」
そんなこと言われても・・・。
青年は困る。
「俺が出すん、手伝えや、ほんなら許したる」
ソイツの言葉に青年は頷くしかなかった。
指を舐められた。
赤い舌がそれを舐めるのを見たら、青年はまた変になりそうだった。
違うモノを舐められているみたいで。
言われるがまま、ソイツの口の中に指を差し込む。
さっきまで舌を絡ませていた、そこに指を入れる。
青年の身体の一部はもう、ここを良く知っている。
「一本や足りへん。もっと入れて」
囁かれたら、またおかしな気分になっていく。
唇が扱くように青年の指を含み、舐めあげていく。
思わず青年は声をもらす。
「お前が感じとるんかい、あかんやろ、お前は俺を気持ちようさせなあかんのや」
冷たい声でソイツが言ってくれたので、正気に戻れた。
唾液で指はたっぷり濡らされた。
ソイツは壁に手をつき、自分で尻を押し広げた。
「・・・入れて」
ソイツは振り返り、腰を突き出し言った
青年は一瞬呆然とした。股間が熱くなった。
だが、「指」のことだと思い出した。
こんなところに、入れてしまっていいんなろうか。
青年は戸惑いながら、それでも、そこに何かを埋めたい欲求を感じていた。
「これは手伝いや、手伝いや」
何度も声にだして繰り返しながら、ズブリとそこに指を入れた。
そこの熱さと柔らかさ。
入れたら気持ちいいだろう、そう思ったことを頭から追い出した。
「・・・どうすれば・・・」
青年は尋ねた。
この先のやり方がわわからなくて。
「指を・・・曲げて、ちょっとふく、・・らんでるとこ探して」
そいつが喘ぐ。
言われるがままに指を動かす。
痛いような思いはさせたくはなくて、出来るだけ優しく。
そして、青年は言われた場所を見つけ出した。
「あっ」
身体をふるわせ、喘がれた。
その表情にゾクリとした。
「そこ・・や、もっと擦るんや・・・俺は後ろの刺激がないとイけんのや」
ソイツは喘いだ。
自分で前を擦り初めていた。
「はよ、擦れ・・・!」
喘がれ、青年の喉が鳴った。
青年は、そこを擦り始めた。
「ああ、いい、指増やして・・・」
指を増やした。
もっと深く、擦りたい。回したい。
青年は夢中になってそこを弄った。
「いい、ああ、い・・い、もっとせぇ、もっとや・・・」
背中をそらせ、白い喉をそらせて、そいつが鳴く。
その声がイヤらしい、もっと聞きたい。
ここをこすってやりたい。
もっと強く、指なんじゃないもので。
青年の股間がまた疼きはじめる。
自分で扱く姿も淫らで。
シャツの下に今は隠れている、あの金の輪をつけた乳首を弄ってやったらさらに乱れるのだろうかと考えずにはいられない。
「ああっ・・・イク・・! 」
そう叫んで、白濁を出しながら達する姿に青年は欲情せずにはいられなかった
青年は何とか勃起したものを鎮めようとうずくまる。
「なんや、結局またお前、勃ててるんやないか」
振り返ったソイツは笑った。
「しゃあない抜いたるわ 、出せや」
ソイツに言われる。
「いや、それはあかんって、理由もないのにしたらあかんて・・・」
青年は必死で断る。
ソイツに触りたかった、入れたかった、触られたかった。
でも、こういうのは違う。
こういうのははちがうんや。
「・・・お前が俺を手伝ってくれたお礼やったらええか?」
ソイツが笑った。
「お礼?」
青年が繰り返す。
もう、頭の中はソイツとしたいのを耐えるだけで必死だ。
「要は、相手が誰かも分からんで、ただ突っ込んだり入れたりするんが嫌なんやろ?・・・お前は俺を助けたわけやし、広い意味で言うたら他の誰を助けたわけや、お礼されてもおかしくない」
ソイツの言葉に良くわからないところがあって、聞き返す。
「他の誰か?」
「俺は一回やりたなったらおさめんのに、誰かを使って出すか、ボコボコに殴り倒さへんと治まらん、お前は誰かを助けたわけや」
ソイツは笑った。
青年は真っ青になる。
「僕も殴られてたんやろか・・・」
「知ってるヤツは殴らん。触りっこしたわけや。知らんヤツちゃうからな。・・・可哀相やろ。殴るんは知らんヤツかムカつくヤツだけや」
ソイツは言った。
青年は目の前にいる人間が自分とは全く種類の違う生き物であることを知る。
コイツには知らない人間を傷つけることは快楽でしかないのだ。
でも、知っている人間は「可哀相」だからそうしない。
奇妙な倫理感。
ソイツが青年に興味を持ち。言葉を交わしたことにより「知っているヤツ」になったが、なっていなければ、セックスでなければ暴力を受けていたのだ。
「ええから出し。お前のルールは守ったる。出すん手伝うだけやし、俺はもう知らんヤツではないやろ。穴に指まで入れといて」
ソイツは笑った。
路地裏の冷たいコンクリートの上で、座りながら青年はソイツに手を添えられて扱かれていた。
手を添えられているだけなのに、ソイツの指がそこにあるだけで、たまらなかった。
向かい合わせのソイツの綺麗な顔が、自分を覗き込んでいるのがはずかしくて、でも興奮した。
「・・・あんた可愛いな」
クスリとソイツが笑ったので、真っ赤になった。
コイツの穴に入れることを考えた。
そこで擦ることを考えた。
赤い乳首、ピアス。
指を咥える唇。
見つめる目。
夢中で扱いていた。
自分の手に添えられた指がイヤらしいと思った。
また声をあげて、だしてしまった。
「・・・キスやったらええか?」
濡れた声で囁かれた。
拒否できなかった。
したかったから。
抱きよせ、唇を重ねたのは青年からだった。
夢中でその口の中を貪った。
抱きしめた身体の暖かさが心地良かった。
「手で扱いてキスだけて、お前今時中学生でもないやろ」
ソイツはクスクス笑っていた。
青年は真っ赤になる。
「仕方ないやろ。あかんのや」
青年はしどろもどろになる。
見つめあって、また笑った。
確かにもう、知らないヤツじゃない。
親密感が生まれていた。
「・・・こんなん、絶対許さへんねんけどな、お前、俺の乗ってる車にぶつかってきた上、俺にさせへんなんて、許さへんで普通。ボコボコにして、山に捨てるわ。結局一回出しただけで、中途半端やし・・・でも、許したろ、お前おもろいし」
先に立ち上がったソイツが手を伸ばした。
その手につかまって立ち上がる。
「お前、許したるから、今日はこのまま朝まで付き合えや、それくらいはええやろ」
ソイツは笑った。
邪気のない笑顔。
「付き合う・・・?」
青年は不思議そうに言う。
「・・・まあええから、遊ぼうや。性的な意味じゃなく」
ソイツは楽しそうだった。
「でも、自動車・・・」
二人とも交差点に車を放置したままのはずだ。
「今頃警察がレッカーで証拠として持っていっとるわ」
事も無げにソイツは言った。
車がぶつかり、ハンマー片手に降りてきたソイツにガラスを割られ引きずり出されるのは大勢の人が見ているので、多分そうだろ。
暴力事件と拉致事件だ。
ただ、今、その当事者達は仲良く話しているけれど。
「朝までや・・・」
そうせがまれると、なぜか嫌だと言えなかった。
飲みに連れて行かれた。
連れて行かれた店で、若い連中に囲まれ挨拶された。
ソイツは面倒くさそうに手を振り、ソイツらを追い払った。
ソイツを見る連中の目。
恐れと憧れ。
青年はこれを知っていた。
「あんた、相当若いんやないか?」
青年の言葉にソイツは不思議そうな顔をした。
「酒も運転もしてええ20才や、お前は?」
やはりそうだ。
グラスに酒を注がれる。
断ることは許されないんだろなと思いながら、思ったより若かったことに納得した。
年が離れているから、コイツのことを知らなかったのだ。
「僕は25や・・・」
年が近かったら知らへんはずがない、僕はこの街で育ったんやから。
青年は思う。
圧倒的な暴力、無軌道さ、無視できない魅力。
この街の若者はそういう男が好きだ。
自分達には大した未来がないことを、本当は知っている若者達は、その若い時間をどれだけの無謀さで飾れる かを競う。
この男はそんな連中のロックスターなのだ。
この街には時折そんな男が現れる。
無軌道に暴れ、伝説を作る。
何も誰も彼を止められない。
暴力とセックスを貪り、畏れられ、崇められる。
そして、みんな早く死ぬ。
二十歳前後で。
その無軌道の果てに。
街は時折生み出す。
とても危険で、魅力的で、死に向かってただ突っ走しるだけの男を。
「お前、ここの出身やな、それっぽくないけど」
ソイツは言った。
育ちの悪さは隠しきれんか、青年はそう笑う。
「高校卒業して街を出た。今日は実家に帰らなあかんくて」
青年は答えた。
早く出たかった。
この未来のない街にはいたくなかった。少しはマシな未来が欲しかった。
苦学して大学を出た。
・・・マシな未来は手には入ったかどうかは知らんけど。
貧困と暴力は、不満と侮蔑に満ちた世界に変わっただけで。
青年は自嘲しながら思う。
「ふうん」
ソイツは青年を見つめた。
綺麗な目だった。
最初から全てのブレーキを切っている人間の目だ。
青年が知っているこの目をしていた人間は皆もう死んでいる。
青年は胸の痛みを覚えた。
なんとなくわかった。
コイツも死ぬ。
そんな長ない。
ソイツに見つめられて、青年は困った。
連れて来られたものの、何を話せばいいのかもわからなかった。
ソイツは青年の髪をそっと撫でた。
「無理してしゃべらんでもええ」
微笑まれた。
「俺も無理して話さんし」
戸惑う位優しい笑顔だった。
二人でいる沈黙は心地良かった。
バーを出た。
青年はふらつく。
「酒、弱いんやな」
ソイツは笑って青年をささえた。
公園のベンチで下ろされた。
「待っとけや」
ソイツはどこからか、スポーツ飲料のペットボトルを買ってきて青年に渡した。
そういえば飲み代も払ってなかった。
「そういえば飲み代・・・」
言いかけたら、どうでも良さそうに手を振られ、ペットボトルのキャップをはずされた。
「ええからそれ飲み」
優しくソイツは言った。
それは死んでいったこの街の友人達を思い出させた。
皆、無軌道で、むちゃくちゃで、残酷で。
ついていけなくて。
でも、時折り見せる優しさや無邪気さは 溢れるようだった。
同じものなのだ。
彼らには。
残酷さも、優しさも。
平然と振るう暴力も、溢れる優しさも。
今ここで青年に優しくても、明日、コイツは誰かを殴る。
そして、殺すかも知れない。
どちらにしろコイツは長くは生きられない。
組織に入れるタイプでもない。
無軌道に暴れ続ける先にあるのは死だ。
確信めいたものがあった。
この男は生きながら、もう死んでいる。
「何で、泣いてるんや」
ソイツは戸惑ったように言った。
自分が泣いていることを青年をは知る。
「・・・それ飲めや」
ソイツは優しく言う。
青年は嗚咽する。
両手で顔を覆った。
何でそうなったのかわからない。
ただ、悲しかった。
ソイツはペットボトルを取り上げ、自分の口に含んだ。
そして、口移しに青年にのませた。
液体が口の端からこぼれる。
「・・・もっと飲めや・・・」
また液体が口移しにそそぎ込まれた。
青年はむせた。
次に唇を塞がれた時には、液体ではなく、ソイツの舌だけが入ってきていた。
舌を絡められた。
でも、遠慮しているのがわかった。
だから、応えた。
自分からその男の舌を貪った。
泣きながら。
そんな遠くない先、この男が死ぬことが悲しかった。
ソイツを抱き寄せていた。
ソイツは青年の膝の上に向かいあって座っている形になった。
唇が離れた。
青年の涙をソイツは舐めてとる。
「何が悲しいねん・・・」
優しく髪を撫でられた。
「あんた死んでるみたいや・・・なんでや、なんでなんや・・・そんなん嫌や・・・」
青年の言葉に、ソイツは驚きを浮かべた。
「俺が死んでる?・・・そうか・・・そうかもしれんなぁ」
ソイツはため息をついて、また青年に口づけた。
そこだけででも、青年と繋がっていたいかのような切実なキスだった。
求められように、何度も貪られた。
「なあ、その、理由ってヤツな、お前がするのにいる理由ってヤツ・・・何が必要なんや」
唇が離れた時にソイツが囁いた。
「・・・俺とする理由をくれへんか?」
ソイツは言った。
「俺はお前が欲しいねん・・・あかんか?」
青年は笑った。
意外と律儀なソイツが可愛くて。
「理由なら、もう出来た。・・・僕もあんたが欲しいわ」
また唇を重ねた。
理由。
理由。
その人が欲しい。
快楽じゃなくて。
そんな理由で良かった。
シャツのボタンを外せばそこに、白い肌とそれがあるのはわかってた。
青年はずっとしたかったことをした。
小さな金の輪のついた乳首を口に含んだ。
これが舐めたかったのだ。
夢中になった。
「・・・あ、ひっぱんな」
唇に輪を挟んで引っ張っれば、ソイツは喘いだ。
噛み、舐めた。
「あっ、いい。もっと舐めてぇや・・・噛んでや・・」
ビクン身体がゆれ、ソイツは青年にせがむ。
青年の頭を乳首におしつけるように抱え、青年の膝に座った尻を青年のすっかり立ち上がったものに擦り付ける。
その感触がたまらなかった。
「あんた・・・エロすぎる」
青年は呻いた。
「あかん、はよ入れたい ・・・おかしなりそうや」
青年はベンチに押し倒した。
ソイツのズボンをずりおろす。
脚をわりひらく。
そこには立ち上がったソイツのものがあり、その淫らな光景に青年は息を荒げた。
同性のものが淫らに感じたのだ。
正直に言うと、女のものを前にしたときよりも興奮していた。
いれたかった。
とにかく。
脚をもちあげれば、そこにそれがあった。
「いきなり入れるんは」
言いかけたソイツに青年は答えた。
「解ってる」
舐めた。
尻をおしひろげ、舌でその蕾の襞をなぞるように舐めた。
自分でもそんなところを舐めれるなんて思っていなかった。
でも、指を濡らして入れた時のようにここを濡らしてやらないといけないと思っただけだった。
男を傷つけたくはなかっただけだった
でも、白い尻と、使い慣れ淫らな形になったそこはイヤらしくて 、いつまでも舐めていたいと思った。
「・・・もう、ええ、もう舐めんでええ」
抑えたような喘ぎ方に戸惑って、青年は顔を上げた。
そこには顔を真っ赤にしたソイツがいた。
「なんや・・・お前みたいなヤツに、そんなん、さ、さ、れんのは、恥ずかしい」
そう言われた瞬間、青年も自分がしていることを理性で把握し、真っ赤になった。
でも、やめなかった。
「嫌や、止めへん」
音を立てて舐めた。
コイツがこんな可愛いなるなんて、反則やろ・・・。
「あ 、ああ! 、おい、俺はやめてやっ、 たや・・・ろ、ああ!」
ソイツの声にもう股間がはちきれそうだ。
舌まで押し込んでしまった。
可愛すぎた。
「お前、真面目な顔して、ド変態やろ・・・騙されたわ」
ソイツが涙目で言った。
「でも、俺、誰としても恥ずかしなんて思ったことなかったのに・・・」
またそのセリフでイきそうになる。
淫らで危険で積極的なコイツは確かに、ヤバかった。
でも、今のコイツは。
もう、青年には絶対に拒めない。
抱きしめしまった。
「あんた、可愛い。ホンマ可愛い」
何度も唇にキスをおとした。
「嘘つけ。俺を拒んだ男はお前だけやぞ」
ソイツはムスっと言った。
[
「僕は、男抱いたことないし・・・」
狂ったように突きながら、青年は言った。
こんなに欲しかったことはなかった。
「あっ・・ええ、ホンマ・・にええ。お前、ええ・わ」
ソイツは泣きながら喘いでいた。
感じてくれている。
そう思うとたまらなかった。
涙を指で拭ってやる。
「普通の男やから、あんたを満足させてやれへんかもしれんけど・・・」
指で擦ってコイツが乱れた場所を硬い青年のモノでこすれば、ソイツは背中を反り返らせ叫んだ。
「あっ・・・イク!!」
反り返ったソイツの性器から、白濁が青年の顔にまでとんだ。
余韻に震える身体をそれでも青年は責め立てた。
「そんなんしたら・・・ああっ、また・・・イク!!」
続けざまに、ソイツはイった。
白濁がダラダラとこぼれて止まらない。
「まだや。もっとや、もっと。僕はあんたがほしいんや・・・」
青年は止まらない。
もっと深くつながりたかった
もっともっと奥まで犯したかった。
奥深くまで送り込む。
「僕でもっと気持ちようなって」
青年は言った。
気持ち良かった。
溶けそうだった。
でも、もっともっと、コイツをよくしてやりたかった。
セックスでこんなこと思ったことはなかった。
白い両腕が首に絡められ 、青年はソイツに引き寄せられた。
ソイツは青年の唇を貪った。
そして、耳元で囁いた。
「・・・めちゃくちゃ気持ちええわ、アホ」
微笑まれた。
心臓か締め付けられるような愛しさを青年は感じる。
青年は、その言葉で、その微笑で達してしまった。
声を上げて青年は放っていた。
その放たれた感覚に、白い身体が痙攣した。
今度は射精もせずににソイツはイった。
「あんた・・・そんな可愛いん反則や」
青年は赤くなりながら言った。
だから、出したのにおさまらないのは仕方ないと思った。
可愛いすぎて、もう、やり殺したいわ・・・
生まれ始めて青年はそんなことを思った。
公園だということも忘れていた。
ただただ、声を上げて貪りあった。
それでも終わりはきた。
「もうええわ、さすがに当分はせんでええ」
ソイツは言った。
全裸でベンチに転がっていた。
自分が脱がしたことも青年は忘れていた。
青年は、公園のトイレでハンカチを何度も洗い、ソイツの身体を綺麗に拭く。
ソイツ はされるがままになっていた。
自分の顔に飛んだ精液も拭く。
ただ、拭いても拭いても、尻からこぼれる精液をどうすればいいのかわからず、困った。
「たっぷりだしやがって」
ソイツは笑った。
起き上がった。
精液をこぼしたまま下着を履き、ズボンを履いた。
シャツを羽織る。
青年がつけた無数の跡がはだけたシャツの間から見える。
思うまま吸った跡だ。
片方だけの乳首の金の輪が光る。
「ええで、別にこんなん、しょっちゅうやしな。誰かに車で迎えに来させるわ」
ソイツが微笑む。
青年は立ち尽くす。
ああ、行ってしまうのか。
「朝まで付き合わせる約束やったしな・・・もうすぐ朝や」
少し寂しそうにソイツは青年を見た。
空が白みはじめていた。
「なあ、もう一回だけ、キスしてくれへん?」
恥ずかしそうにソイツは言った。
青年は抱きしめた。
離したくないと思ってしまった。
「お前だけは、俺を死人のように見るんやな、もう、俺が死んでいるみたいに。でもな、お前は死んだ俺に泣いてくれてんのはわかってんねん。俺は死んどる。もう生きられへん。いつからかもわからへん、もうずっと死んどる」
その声は切なくて。
「多分その内ホンマに死ぬやろ、そんな遠ない ・・・俺が生きた人間やったら良かったのにな・・・お前ホンマにオモロいし、じつはヤらしいし、結構絶倫やし・・・」
笑った。
「絶倫なのはあんた限定や・・・」
青年は呻いた。
抱きしめていたかった。
でも。
この人はこの人のいうとおり、もう死んでいるんだ。
でも。
それでも。
「キスしてや、お前から」
甘えたように言われて、青年は優しく唇を重ねた。
貪るようなキスではなく、優しい優しいキスをした。
唇が離れ、ソイツが青年を押しやった。
「ほんならな」
ソイツは微かに 笑って、歩き出した。
振り返りもしなかった。
数ヶ月後、新聞にソイツの写真が載った。
複数の暴力事件の容疑者が 、抗争の結果撃たれて死んだ、そんな記事だった。
荒い粒子の写真でも、それでもソイツは綺麗だった。
組員にすらなれない悪質なチンピラの話。
それだけの話だった。
青年は新聞を抱きしめて泣いた。
でも、わかっていた。
あの夜にはもうアイツは死んどったんや。
それでも。
あの夜のアイツはとても綺麗で愛しかった。
青年は涙を流し続けた。
END
ともだちにシェアしよう!