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第14話(R15)
どきりとした。ヤクモの顔がこの上なくうれしそうだったからだ。
その表情に気を取られているとズボンをずり下ろされ、ゆるく立ち上がっていた俺のが外気に触れる。
「あ、アサヒの、」
「やめろって!」
性器に伸ばされる手を掴み取る。そうして片手を塞いだらもう片方まで伸ばしてきたのでそっちも。両手を塞がれたヤクモが不服そうな目を向ける。
「なんでだめなの、アサヒ」
「とにかくこういうのは駄目だ。普通自分で発散するもんだから」
「じゃあ、なおさら自分でできるようにならないと」
隙をついてぐっと腕を押されバランスを崩しそうになる。させるか。
「えっと、なんだっけ……何回も、して、上手になるの、」
「……『練習』、だな。そうか字を覚える時に知ったのか……だけど無理」
言いつつぐいと腕を押し戻す。ヤクモの腕は細いのであっさりと動かせた。
「ううっ……」
「お前はもうちょっと腕力鍛えたほうが良いな。筋トレも視野に入れようか」
掴んでいた腕の力が弱まった。やっと諦めがついたのだろうか。
「……アサヒぃ……」
ふと俺の名を呼ぶ声がまるで泣くような震え方をしたものだから、俯いていたヤクモの顔を慌てて見つめる。
「ボク早く人間になりたい。だから、ちゃんとできるようにならないと」
思いつめるような、不安そうな、眉根をへにゃりと下げたヤクモ。
「だったら自分のでやれよー!」
「でも、アサヒもつらいんだよね? ボクもつらかったし、そうなんでしょ?」
「あ、いや、うーん、そう……だけど」
うろたえているとまたヤクモの両手が強く押してくる。
「これ、オナニーできたら、気持ちよかったから、アサヒにもしたい。いつも……アサヒには、してもらってばかりだから」
ヤクモが前を向く。そして目が合う。まっすぐ見つめ返された。
「そうか、ヤクモ……そういうのを多分、おんがえ……いや、お返しっていうんだよ」
限りなく恩返しだと思うが、その結果がコレはちょっと台無しな気がする。
「その気持ちは大事だよ、ヤクモ。もらったものを返していくのは、とっても大事だ」
ヤクモの手が、指が、柔らかく俺の手を撫でようとするのが分かった。
「でもな、」
「お願い、頑張るから」
細い指が俺の指と絡み合う。あーもう。一呼吸する間悩んで、腹をくくった。
「好きにしろよもう」
ヤクモの困り顔が、一転して喜色に変わる。
それだけでなんだかこちらも嬉しくなってしまったのが逆に困りものだった。
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