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第1話
「うっ・・・はあっ・・・」
喘ぎ声。
ソイツがズボンを下ろし、それを擦っているのが見えてしまう。
結構デカい。
先からこぼれた液体ごと擦る濡れた音が聞こえてしまう。
あ、コイツも先を弄るの好きなんや、とかなんか、思ってしまった。
苦しげに眉がひそめられているけれど、そこにあるのは快感なのは俺も知っている。
学校の女の子達が騒ぐ、綺麗な顔が、そういう風に歪むのは確かに男の俺が見ても色っぽかった。
それは見てはあかんもんなんはわかっていた。
でも、もう、部屋を出るタイミングは完全に失ってしまっていた。
ちょっと、ちょっと教科書を借りに来ただけやったんや。
学校机に置いてきてしまったから。
そしたらアイツはおらんくって、でも、机の上になんかスケッチブックが広げてあって。
なんやアイツ絵なんか書いてるのかと、ちょっと興味半分で覗いてみたら・・・それは俺が描かれた鉛筆画で。
何で?
そう思った。
しかもそれは、学校の机に座って少し笑っている俺の絵だった。
アイツが俺の前でスケッチを広げているのは見たことないから、これが記憶だけを頼りに描かれたものなのは確かだった。
怖いと思うほどの克明さがそのスケッチにはあった。
それが簡単に書かれているものではないことはわかった。
絵のことは分からない。
でも、その俺がものすごい執念みたいなんで書かれているのは良くわかった。
俺の顔に散らばる薄いソバカス、
頬の上、耳のすぐ近くにある、ホントに小さな誰もが見逃すような2つのホクロまで書き込まれていたから。
絵の中で俺は笑っていた。
スケッチブックを持つものへむかって。
アイツにそんなことをしたことはないから、これは完成にアイツの想像の産物で。
でもそれは確かに俺の笑い方で、俺はだからこそ混乱した。
俺はそのスケッチブックにうめこまれていた。
それは、確かに俺の俺らしさで出来た絵で。
そこまでして俺を絵の中に閉じ込めたい執念みたいなんがあって怖くなった。
そして、部屋にアイツが戻ってくる足音がして・・・俺はソイツと顔を合わせたくなくて、慌てて押し入れにかくれてしまった。
だってこんななんかスゴイ執念がしみ込んだスケッチ前にして、何話すん?
「見ちゃったぁ」
ではすまへん。
すまへん。
見てしまった以上は色々聞かなならん。
そんなん、話せることがわからへん。
薄く扉を開けて押し入れから様子を窺っていた。
この部屋から出るタイミングを見つける為に。
そしたら、アイツが・・・始めてしまったんや。
なぜか、そのスケッチブックを目の前にして。
同じ年の、新しい親父の連れ子。
血の繋がらない、義理の兄貴。(3ヶ月ほどコイツのが先に生まれた)
それほど親しくはないけど、それなりに上手くはやっていたはずのソイツは自分のモノを擦りながらしとった。
俺の絵を見ながら、
「 」
しごきながら、俺の名前を何度も何度も呼んだ。
擦りたて、腰が揺れる。
名前を呼ぶ事に快楽があるかのようだった。
もっと恐ろしいことには、名前を呼びながら・・・出したんや。
何コレ。
何コレ。
なんなん?
これって俺でぬいてるんやんなコイツ?
そうやんな。
ソイツと出会ったのは3ヶ月前。
母さんが会って欲しい人達がいると言われて、ああ、とうとう来たか、って思った。
「あの人と結婚したいんやな、母さん」
俺は言った。
誰かはわかってた。
母さんが緊張した顔をしていた。
そんな顔すんな、思った。
反対なんかするわけないやろ。
「俺はかまへんよ」
俺は先に結論を出しておいた。
父さんが死んで12年、母さんは一人で頑張ってきたんや。
幸せになればいい。
あの人はええ人や。
二年前、母さんが仕事の仲間やと家に連れて来た時からこうなるのはわかってた。
あの人か母さんのことが好きなのは・・・最初から分かってた。
母さんを見る目、母さんへの話し方。
まるで恋に落ちた少年みたいだった。
とうとう、口説き落としたんやな。
そう思った。
「あの人やったらええ」
俺は笑ってみせた。
「・・・一緒に暮らしたいんやけど」
母さんが遠慮がちに言った。
「ええよ」
俺は頷く。
卒業したらこれで家を出れる。
母さんのこして希望の大学を受験するのは悩んでいた。
ちょっと家からは通えなかった。
でも、母さんはもう一人じゃない。
安心して出れる。
あの人に俺と同じ年の息子がいるのは知っていた。
一年半位なら一緒にやっていくのもいい。
「4人家族か。いきなり家族が倍やな」
俺が言ったら母さんは泣いた。
俺が嫌だと言えば諦めるつもりだったのだ。
そうやってずっと俺のために何でも諦めてきて。
もうええ。
もうええんや母さん。
「泣くなや、アホやな」
俺は母さんに言った。
新しく家族となる人達と食事をする約束事をした。
そして、その夜、我が家での食事の席で俺はソイツと初めて会ったのだった。
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