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第2話

 ソイツはあの人に似てなかった。  あの人はホンマに人の良さこそ滲み出ていたけど、まあ、外見じゃないよね、人間は、という感じの人だった。  それを言えば俺も、地味顔でイケメン呼ばわりされることは絶対にないんだけど。  「これ、息子」  あの人がそう紹介したソイツに俺はびびった。  怖くなる位の男前っておるんやな、そう思った。   青みをおびたほど黒い髪や、真っ黒な大きな瞳や,長い睫毛や、でも、男らしい大きな身体や、綺麗で大きな手やら・・・。  俳優かモデルかと思った。  端正ってこういう顔のためにある言葉なんやろ。  男らしいのに綺麗て・・・あるんやなぁ。  軽く頭を下げるソイツは、ひどく大人びていて。  まだ発育不良、下手すればまだ中学生に見えてんしまう俺とでは同じ年には見えなくて。  いや、俺かてここんとこ急に背か伸びてきてるんやで。  やっと17で成長期を迎えた俺には、もう完璧な一人の男であるソイツは羨ましいと思ってしまった。  コイツ身長も180超えてるやろ。  思いっきりみとれてしまったのは事実。  「似てへんやなぁ」  思いっきり言ってしまった。  「コイツは母親に似たんや」  あの人が笑った。  母親、この人の前妻か。  すげえ美人やったんやな。  「似てへんくて良かったで。めちゃくちゃイケメンやん。おじさんに似てたらこうはならんわ」  俺は正直に言った。  「こら!」  母さんが怒る。  あの人は笑う。  アイツは戸惑うように俺を見た。  「男の子は母親に似るっていうからね。君もお母さんそっくり」   あの人が言った。  それは本当。  母さんと俺は似てる。  柔らかい扱いに困る髪も、やたら白くてソバカスのある肌も、優しい顔とは言われる地味な顔も。  「・・・ほんなら、今日からよろしく」  俺はソイツに向かって笑った。  手を伸ばす。  ソイツは少し戸惑ったようにその手を見つめ、慌てて伸ばした俺の手を握った。  「こちらこそ、よろしく」  声まで低音ボイスでイケメンやった。  笑顔は優しくて。  上手くやっていける気はした。  レストランでの食事は和やかに進んだ。  母さんはソイツと会ったことはあるから、なんか冗談言い合ってたし、俺もあの人とはそれなりに親しくしてたからまあ、そんな感じで。  むしろ、母さん達の心配は俺とアイツだったのではないかと。  そこは上手くやれそうだ、と俺は思った。  だってコイツ、上手くやれるヤツだもん。  空気を読んで適切なことを言う。  俺もまあ、そういうところある。  まあ、俺はその上でここまではええやろ、と言うギリギリの線引きもうまい。  ギリギリのところで発言できれば、人気者にもなれるしな。  ・・・子供なだけではいられなかった環境で育ったもんはこうなるやろ。  俺は母さんを助けるために、大人になろ大人になろしてきたし、コイツもそうなんやろ。  上手くやっていく事で、親には心配かけんですむようになるからや。  母さんが必死で俺を守ろうとする思いと同じ位、俺だって母さんを助けたかった。  周りと上手くやれたなら、いらん心配は大きく減らせるし、上手くやれる子は「ええ子」や。  「ええ子」の親は誉められる。  母さんが誉められるなら何でもやった。  母さんが大事だから。  多分、コイツもそういうのなんやろ、思った。  上手くやれる。  好きな音楽の話などして、ソイツと笑いながら俺は思った。  それに、ちょっと嬉しかった。  ・・・仲間みたいな気がして。  上手くやっていくシステムにホントはちょっと疲れてる、そんな事もコイツやったら分かってくれるんかもしれんとか思ったりして。    ソイツは夕食後、部活の観測があるとのことで一人先に帰ることになった。  天文部って。  あの体格やったらバスケ部とかそんなんやと思ってたわ。  明日は祭日だし、今日はなんか流星群が見れるとか。  「笑うけどな・・・天文部、ええで?星空見てたらな、スケールのでかさにやられんねんて。あの光は何万年とかかかって地球に届いているんやで?俺達は遥か昔を今見てるんやで?」   アイツが笑いなから言ったから、俺もちょっと見てみたいと思った。  「そんなん聞いたら・・・俺も観たいなぁ」  俺は心から言った。  ソイツは嬉しそうに目を細めた。  「ほんなら、いつか一緒に行こうや。兵庫県にな、天体観測できる星空か綺麗なキャンプ場があるんやで・・・日本でも有数のポイント」  ソイツが言ってくれた「いつか」は、「上手くやる」俺達の言葉では「まあ、ない」って意味やと分かっていたけど、それでも、その言葉が好意を伝えてくれるのは分かって嬉しかった。  「ええなぁ」  俺はないはずのいつかを嬉しく思って言った。  「・・・行こうや」  アイツは笑った。  あ、これ、ホンマに誘われてるかもしれん思った。  たまたま親同士が結婚することになって、兄弟いうても今更やし、まあ、上手くやっていくしかない間柄やけど。  ホンマに仲良くなれるんやったら嬉しいと思った。  コイツは綺麗で、男前で、しかもエリート進学校に行ってて、めちゃくちゃ別次元の人間やて思てたけど、こんな風に笑われたら、普通の同じ年にしか思えんくて。  「ええな」  行きたい。  ホンマ思った。  「言うとくけど、自転車で行くからな?山も超えて」  アイツが笑った。  「マジか?」  何キロあんねん。  でも、楽しそうや思った。  自転車で星空を見に行く旅。  俺達が楽しそうに話すのを、母さんとあの人は嬉しそうに見ていた。  俺は正直楽しみになってしまった。  上手くやることばかり考えていたけど、コイツとやったらええ友達みたいにはなれるかもしれへん。  家族になるから、何をしても切れへん関係になるからこそ、考えて付き合わないといかんけど、上手くやる以上の関係になれるかも。  俺は嬉しくなってしまった。      ひさびさホンマに何度も笑った。  あの人が駅までコイツを車で送ってから、俺の家まで俺と母さんを送ってくれることになった。  レストランを出て行くふたりを見送っていたら、母さんが気づいた。  「あの子忘れてるわ」  アイツは携帯をテーブルの上に置いたままにしていた。  「俺、駐車場まで持っていくわ」  俺はそう言って、携帯を持って二人の後を追った。

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