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【10-6 華城side】

 翌日、早朝にホテルを抜け出した俺は駅近くのコインパーキングに停めていた自家用車に乗り、一旦自宅マンションへ戻った。  もちろん、ホテルの部屋は俺の痕跡をすべて消してきた。  散らかったティッシュも、彼の体を拭いたタオルもきちんと片付けた。  玖音が目を覚ます時間を見計らって電話を入れるつもりだが、知らぬ存ぜぬを自然に装うことが出来るだろうか。  シャワーを浴び、洗面所の鏡に映った自身の顔がやけにスッキリしていることに気づく。昨夜の事を思い出してニヤリと口元を綻ばせた。  一週間ぶりのスーツに袖を通し会社へ向かうと、まず部長である松島に挨拶がてら『玖音は現場に直行した』という旨を伝え、もちろんタイムカードも押した。  腕時計を気にしながら、庶務の石田に外回りに出ると告げて早々に営業部のフロアをあとにする。  スマートフォンを耳に当てながら駐車場へと移動して、さも当然のように営業車に乗り込んだ。  何度呼び出してもなかなか出る気配のない玖音が心配になったが、スピーカーから掠れた声が聞こえた時にはホッと安堵のため息をついた。 『――もしもし』 「杉尾さん? 今、どこにいるんですか?」  普段と変わらない調子で彼に問いかける。  電話の向こう側で、少しの沈黙の後、酷く狼狽えた声で俺の名を呟く玖音。その姿が目に見えるようで、笑いをかみ殺すのに必死だった。 『は……はな、し……ろ?』 「――声、ずいぶんと掠れてますね? 風邪……ですか?」  酔っ払った上に、あれだけ嬌声をあげて喘げば声も掠れる。  艶のある色っぽい声で甘える彼を思い出して、顔が自然とニヤけてしまう。 『いっ……つぅ! 頭……痛い』 「――え? 大丈夫ですか?」  やはり二日酔いだけは避けられなかったようだ。  しかし、俺からの電話だと知っていながら即座に電話を切らないところをみると、昨夜の相手が俺だったということには気づいてはいないようだ。 『最悪……だ』  唸るように言いながら小さく舌打ちするのが聞こえる。  おそらく痛いのは頭だけではないはずだ。あれだけ無茶な行為をした後だ、下半身に残る倦怠感も半端ではないだろう。  急に黙り込んだ彼を不安に思い、恐る恐る名を呼んでみる。 「杉尾さん?」 『あ……あぁ。どっかの……ホテル、みたいだ』 「は?」 『今……。分かんないけど……ホテルにいる』  今まで自分がどこにいるか分からずにいたようだ。電話をしている最中に、やっと状況が呑み込めてきたのだろう。  通りすがり――とは言えないが、この俺にホテルに連れ込まれたとは思うまい。  それに……昨夜、泥酔状態で自分から「抱いてくれ」と誘ったことなど、まったくもって覚えてはいないだろう。  今回ばかりは他人に抱かれたわけではないので、怒りや嫉妬といった類の感情は全くない。むしろ、俺のほうがその余韻に浸っている。  だが、ここで気を緩めたら元の木阿弥だ。普段通り、静観する俺でなくてはならない。 「――今、何時だと思ってるんですか? もう会社は始まってる――」 『なんで……』  俺の言葉を鋭く遮った彼の声が震えている。 『なんで……お前なんだよ。人の気も知らないで……』  まさか……!  一瞬にして全身に嫌な汗が浮かぶのが分かる。あれだけ泥酔していながら、まさか記憶があるとか言わないだろうなぁ……。  もしそうだったとしたら、俺は一生アイツに付き合ってもらえない。  予想だにしない展開に、動揺を隠すことが出来ずに、自然と声が上ずる。 「杉尾さん? 何言ってるんですか?」  電話の向こうでズズッと洟を啜って、なおも声を震わせる玖音。  あぁ……また泣かせてしまった。  どうして俺はこうなんだろう――そう猛省した時だった。 『――早く……。早く、迎えに来いっ!』  自棄になって叫ぶように言い放ったあとで、一方的に電話が切られた。  唐突に切れた電話に、手にしたスマートフォンをじっと見つめたまましばらく動くことが出来なかった。  本当に気づかれているのか? それとも――。  プライドが高い彼のことだ。自身が泥酔している間に俺に抱かれたということに気づけば「迎えに来い」なんて言うはずがない。 「――分かりづらい奴だな」  ボソリと独り呟き、彼のいるホテルなど全く知らないというフリを決め込み、市内を軽く車で流して時間調整をした。  そして、二時間後――。  ホテル近くの歩道を歩く見たことのあるスーツの背中を見つけ、ゆっくりと車を寄せた。  何気なく視線を向けた彼だったが、俺の存在には気づいてはいないようだ。  ハザードランプを点滅させ、急いで車から下りるとその細い背中に声をかけた。 「杉尾さん!」  足早に歩み寄ると、肩越しに振り返った彼が信じられないという顔をしてフリーズしている。 「お前……なんで?」 「あなたが迎えに来いって言ったんじゃないですか。随分と探しましたよ。携帯のGPSで何となくの場所は分かったんですが、この辺りはホテルが多くて……」  我ながら良く出来た理由だと思いながらも、なぜか俯いてしまった彼が気になって仕方がない。  そんな彼だったが、すっと顔を上げて空を見上げながらぼそりと呟いた。 「あぁ……そうだった」  何かを思い出したかのように数回瞬きを繰り返している。俺は不覚にも、その愛らしい横顔に見惚れていた。  しかし、玖音の口から発せられた言葉は抑揚がなく、感情も掴めないものだった。 「お前……自宅待機中じゃなかったのかよ。そんなスーツ着て……」 「昨日、松島部長から連絡があって、証拠不十分でお許しを頂きました」 「そっか……。良かったな」  感情が見いだせない素っ気ない言葉。それに、なぜか俺の顔を見ようとしない。  失恋したと思い込み、誰とも分からない男とまた寝てしまったという罪悪感に駆られているのだろうか。  それならそれで、大いに反省しろ。  今までどれだけの男とそういう関係になったか。そのことで俺がどれだけ嫉妬に苦しみ、さんざん振り回されたか……。 「――とりあえず、車に乗って下さい」  こんなところで立ち話を続けるのは、彼のとっても酷なことだろう。  自身が乗り付けた営業車のほうにちらりと視線を流して乗車を促す。 「俺、今日は……仕事、出来る状態じゃない。それに、無断欠勤だし」  弱々しい声でボソボソと呟いた彼に対し、俺は務めて明るく答えた。 「部長には打合せで現地に直行していると言っておきましたから。タイムカードも押してあります」   俺の反応に、なぜか小さく吐息する玖音が気になって仕方がない。気を利かせすぎた……ということはないはずだが、一体何を考えているのかまったく分からない。 「――悪いな。でも、今は……気分悪いんだよ。家で寝たい」  乱れた髪を細い指で気怠げにかきあげる。  糊の効いたワイシャツの襟元からわずかに見えたのは、俺が残した情痕だ。  白い肌に花が咲いたように映える赤が、再び俺の下肢を熱くし始める。 「痛い……」と言いながらも、細い体をくねらせて感じていた姿が脳裏をかすめた。  湧き上がる劣情を必死に抑え込みながらも、自分を卑下する俺の言動に怯える彼を苛めたい衝動に駆られ、また咎めるように声音を硬くする。 「杉尾さん……。あなた……、また……」  自分の欲情を悟られないように、呆れたような小さなため息を一つ吐くと、彼の二の腕を掴んで車の助手席に押し込み、シートベルトを固定した。 「お、おい……っ」  驚いて声を上げたものの、抵抗する体力がないのか。はたまた気力がないのか。彼はなすがままにシートに体を預けた。  運転席に乗り込むと、俺は冷たく言い放った。  その声音は自身でもゾッとするほど辛辣なものだった。 「――また誰かと、寝たんですか?」  カチカチとハザードランプの点滅する音が車内に響く中、彼は窓の外に視線を向けたまま黙りこんでいる。  薄い唇を噛みしめているところをみると、何かを言いたいのだろう。 「杉尾さんっ」  返事のない彼に少し苛立った口調で再度呼びかけると、顔をゆっくりとこちらに向けた。そして、嫌悪感をむき出すように顔を歪めながら、胡乱な目で俺を睨みつけ呻くように声をあげた。 「うるさいっ。お前にいろいろ言われる筋合いはないんだよ。俺が何をしようと勝手だろ? ただの相棒のお前に、俺を束縛する権利はない。――お前が前に言った通り、俺は尻軽男だよ。声をかけられれば誰にでも脚を開く最低な男だよ。軽蔑するだろ? これ以上、俺のプライベートに踏み込むな……」  昨夜の情交の痕を隠すように指先を押し当てた彼の横顔はなぜだか苦しそうで、少し苛めすぎたか?――と不安になる。 彼はイラつきを隠せないというように小さく舌打ちをして俯いた。 「――分かりました。すみません」  素直に謝ったにも関わらず、女王(クイーン)の機嫌は最悪のようで、また顔を背けてしまった。  玖音は長い睫毛を震わせて、伏目がちのまま小声で言った。 「――とりあえず、家まで送ってくれないか? もう、体がキツイ……」 昨夜のことを思えば、その言葉もまんざら嘘ではないことは分かっている。俺はハザードランプを解除しハンドルを握ると、静かに車を発進させた。  気まずい雰囲気が続き、気持ちが滅入っていく。それに追い打ちをかけるかのように煙草と微かに漂う香水の匂いが混ざり合った空気が車内に充満した。それを払拭するかのように玖音はほんの少しだけ窓を空け、新鮮な空気を車内に取り込んだ。  そんな状況に耐え切れなくなったのは俺の方だった。沈黙を破るかのように――それでも、遠慮がちに口を開いた。 「一体……何があったんですか? その様子だと、昨夜はだいぶ飲んだみたいですね」  窓の外を見たまま微動だにしない彼に、俺は続けた。 「もしかして……俺のせいですか?」  そう問いかけるが返事はなかった。  ただ沈黙だけが続く車内。助手席には、何かを考えてはため息を吐き、眉間に皺を寄せる彼がいる。時折、自身の髪を手櫛で整えて、またため息をつくことの繰り返し。  その様子を視線の端にとらえながら、俺はハンドルを握っていた。 そうしているうちに玖音の住むマンションが近づき、車道の端に車を止め、ハザードランプのボタンを押した。 「――明日はちゃんと仕事するから。悪いな……」  玖音はシートベルトを外し、俺の顔を見ることなく気怠げに言い放つと、後部座席に置かれたバッグを手に取るために体を捩じった。そのタイミングで、俺は衝動的にその細い肩をシートに押さえつけていた。  なぜだか分からない。ただ……このまま帰らせたら、もう明日はない様な気がしたからだ。  少し悪戯が過ぎたのかもしれない……。そう思ってみたところで、後の祭りだ。  それならばいっそ、この場ですべてをクリアにしてしまった方がお互いのためなのではないだろうか。 「な……っ」   驚いた彼が目を見開いて、今日初めて俺の目を見つめた。  髪と同じ栗色の瞳は長い睫毛に縁取られ、昨夜はそれを涙で濡らしていたことを思い出す。 「――杉尾さん。何か……隠してませんか?」 「え……? 隠すって……何を、だよ」 「いつものあなたらしくないっていうか……。いくら飲んでも、誰かと一夜を過ごした後でも、今日みたいに俺の目を見ないことはなかった……。一体、何があったんですか! 俺は、あなたの相棒だ。聞く権利は……ある」  きっと……何かを隠している。俺に言えない気持ちを抱えたまま、また虚勢を張り続ける彼の姿をこれ以上見ていられなかった。 俺の前では――。俺には何でも打ち明けて欲しい。 それが最悪な結果を招くことだとしても、覚悟してすべてを受け止めるつもりだ。  彼は小さく息を吐いて、俺の視線から逃げるようにそっと目を閉じた。 「――お前はまた、深手を負った傷に塩を塗りこむ気か?」  玖音は、抑揚のない声でそう呟くと、肩を押さえたままの俺の手をそっと掴んだ。その冷たさに、俺は息をのんだ。  そして彼は、深呼吸をするようにゆっくりと息を吸い込むと、何かを吐き出すように口を開いた。 「ハッキリ言ってやる。――俺はお前に失恋した」  ゆっくりと目を開いて挑むように俺を見据える。  昨夜、自分に都合のいい考え方をした。もしかしたら俺のことを好き――なのかもしれない、と。  でもそれは、あくまで『そうであってほしい』という願望から生まれたものだった。  それが今――現実味を帯びて、自身へと跳ね返ってきた。しかも……最悪な結末となって。 玖音から発せられた思わぬ言葉に、俺は思わず目を見開いた。  自嘲気味に薄い唇に笑みを浮かべた彼は、そのまま続けた。 「俺はお前に惚れてた。ずっと、ずっと前から……だ。ノンケのお前は、俺みたいな男に惚れられるのは迷惑なのかなって。でも、いつかは絶対に堕としてみせるって息巻いてた。そんだけ、俺には自信があった……。でも、現実はそう甘くない。お前には恋人がいた……。しかも、俺の大嫌いな奴だ。あんな奴に負けるなんて……俺はとんだ道化だ。まあ、仕方がないことだと思ってはいる。お前に惚れていながら、他の男と寝てるんだから自業自得だ。それに、こんな尻軽ビッチが穢れた体を差し出したところで嬉しくも何ともないだろうし……」  唇を食いしばり、今にも泣きだしそうなその横顔に、俺の心は激しく揺さぶられた。それと同時に、玖音の肩を押さえつけていた手から力が抜けた。それでも離すことが出来なかったのは、二度と触れられなくなってしまうのではないかという恐怖心からだった。  彼は、掴んでいた俺の手を肩から引きはがすと、すっと顔をそむけた。 「――お前が聞きたかったこと。これが全部だ……。バカにするならしろ。俺は、みんなが言う女王様(クイーン)なんかじゃない。ただのヘタレた負け犬だ」  吐き捨てるように言った彼は、自分のカバンを掴み寄せるとドア開閉ハンドルに手をかけようと体を戻した。  その瞬間、俺は彼の肩を掴むと物凄い力で引き寄せていた。そして瞠目したまま息を呑む玖音の体を自分の方に向けさせると、半開きになったままの彼の唇を塞いだ。  わずかに開いた隙間から強引に舌をねじ込み、口内を蹂躙する。歯列をなぞり、奥に逃げようとする彼の舌を捉えると、強引に舌を絡めた。  まだ微かに残るアルコールの香りに、昨夜の激しいセックスを思い出し、一層深く舌を絡ませる。 「……っん……ふぁ……んんっ」  逃げようともがく彼の肩をさらに引き寄せ、細い体を抱き込むように腕の中に収めた。  水音を立てて混ざり合う、どちらの物とも分からない唾液が玖音の唇の端から伝い落ちる。それを顎から唇に向かって舌を這わせて掬い取ると、濡れた唇を何度も啄んだ。  幾度となく角度を変えて唇を重ねているうちに、玖音の体から力が抜け、掴んでいたバッグを足元にドサリと落とした。 「ん……ぅぁ……んっ……はぁ、はぁ……っ」  カチカチとハザードランプの点滅を知らせる音に重なった濡れたリップ音、そして互いの息遣いが気まずかったはずの車内を淫靡な空間へと変えていく。  どのくらい彼の唇を貪ったのだろう。俺が唇を離した時には、頬を上気させたままぼんやりと俺を見上げる玖音の姿がそこにあった。  赤く色づいた薄い唇に銀糸を纏わせながら、物欲しげな表情で唇を噛みしめる姿が堪らなく愛らしい。  そんな彼をもっとそばで感じたくて、俺は顔を寄せたまま吐息を零した。 「はな……し……ろ」  息も絶え絶えに、何かを咎めるように俺の名を口にする。  その掠れた声もまた艶があり、昨夜とは比べ物にならないくらい色っぽい。  まるで事後のピロートークのような気怠げな雰囲気のまま、俺は低い声で問うた。 「――誰が、誰に失恋したって?」  唇に触れるか触れないかの距離を保ったまま、ゆっくりと言葉を紡ぐ。  うっとりと俺を見つめたまま、大きな栗色の瞳を潤ませる彼が愛しくて仕方がない。 「俺がどれだけ嫉妬していたか、お前は気づいていると思ったんだけどな……」 「――え?」  驚く彼の唇にわざとリップ音を立てて啄む様にキスを繰り返す。  そのたびに頬を赤く染めていく彼の姿に、必死に抑えている理性が吹き飛びそうになる。 「お前は女王(クイーン)のままでいろ……。そうでなきゃ、下剋上は成り立たない」  呆然としたままの彼は、俺の言葉をどこまで理解出来ているのだろうか。  周りからは傲岸でワガママな女王(クイーン)と揶揄されてきた彼のすべてを否定することなく、そのままでいろと言う俺の想い。彼は女王(クイーン)であってこそ、強くなれる……。 「――お前が言う通り、K興産の吉家と寝た……。だが、付き合ってはいない」  玖音は、意外だというような顔で俺を見つめたまま、何かを言いたげな唇を微かに戦慄かせた。 「信じるか、信じないかはお前次第だ……」  そう言って、俺はもう一度角度を変えて深く口づけた。すぐに離れると、キスの余韻を追いかけるように彼の舌がわずかに覗く。 「明日の朝、迎えにきます。――逃げないでください」  俺は体を起こしながらそう告げると、ハンドルに手をかけて前を向いた。  玖音はドアを開けて、ふらつきながら外に出た。ドアが閉まるのを待って、そのまま俺はアクセルを踏み込んで車を発進させた。  一か八かの賭けだった。  まさか本当に、自分の都合のいい方へ転がるとは思っていなかったからだ。  今まで抑えていた気持ちを吐き出し、少しだけ肩の荷が下りた気がした。  おそらく……彼も同じ気持ちだろう。  二日酔いという状況で、さらに狭い営業車の中という……。こんな色気のないシチュエーションで、互いの気持ちを打ち明けることになるとは。  どうせ想いを通わせるのならば、もう少し気の利いた場所が良かった……と思ったが、そう贅沢は言っていられない。  状況は刻一刻と変わっていく。その状況を見極めて動くしかないのが人間の哀しい(さが)だ。  明日、彼を迎えに来た時、部屋のドアを開けてくれるのだろうか……という不安は未だ拭えない。  今の時点では、まだ互いの気持ちを探り合っている。今日は、たまたまそのことに気づいた……というだけにすぎない。  本当に彼が俺を求めてくれるかどうかなんて分からない。雰囲気に流されただけ……という言い訳だって出来る。  俺は――何が何でも手に入れるつもりではいるけど……ね。  久しぶりに出逢った可愛くて目が離せない男。 『運命の人』と言っても過言ではない相手――。そう簡単に手放してなるものかっ!  みんなの女王(クイーン)を俺だけの女王(クイーン)にする。  そうして、極上の愛情を注いでやるから――待っとけ! *****  ――と、ここまで。  もちろん、ヤバそうな部分は割愛して、談合の真相だけを玖音に伝えた。  それに、酔った勢いで寝た相手が俺だったという事も、吉家との取引に玖音のことが絡んでいたことも、今はまだ黙っていることにする。  真剣に話を聞く彼が可愛くて、つい……座席を移動し、彼の隣りを陣取った。  さて……この後、どうしようか。

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