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【11】

――というわけだ」  そう言って、長い脚を組み替えながら俺の腰を抱き寄せ、ちゃっかり隣りに陣取った華城をギロリと睨みつける。 「何がどういうわけで、お前が隣りにいるんだ?」  つまりは……。 吉家が華城に惚れ、何とかして彼を手に入れようとして画策したのが今回の談合事件だったというわけだ。  ウェストに回された彼の手を叩きながら、俺は冷めたコーヒーを口に運んだ。  まったくもって迷惑な話だ。  前々から吉家は、いけすかない奴だとは思っていたが、やはりそのまんまの男だった。自分の利益のためなら平気で他人をも巻き込むクズだ。  それにしても――。これから、華城はどうするつもりなのだろう。  こんな痴情の縺れが絡んだ話を部長にしたところで、吉家が画策したという物的証拠は何一つない。  このままでは華城の容疑が完全に晴れないまま、迷宮入りになってしまいそうだ。  しかし、当の本人は俺の髪を指に絡めてはキスを繰り返し、あの見惚れるほど端正な顔を崩してニヤついている。  人の心配をよそに、彼はもう俺と恋人同士になったかのような気になっている。一人でヤキモキしている俺から言わせれば、そういった余裕を惜しげもなく見せつける彼はある意味『楽観主義者』だ。  今までの真面目で寡黙なイメージが一瞬にして吹き飛んだ瞬間だった。 「――離れろ」 「照れているのか?」 「バ……バカを言うな! なんで俺が照れなきゃなんない? お前なぁ、勘違いするなよ! 俺はまだお前を……認めたわけじゃないからなっ!」  彼はすっと目を細めて「ふ~ん」と、つまらなさそうな顔をする。その後で、また意地の悪そうな笑みを浮かべて俺を覗き込んだ。 「――お前の認定基準ってのは、一体何だ? セックスか? 結婚か? それとも子供が出来て、初めて俺を認めるのか?」 「はぁ~? 男同士で子作りなんかできるわけがないだろ! 結婚もムリだ!」 「じゃ……残るはセックスか? 繋がってこそ……恋人か?」  華城に押し切られるように、勢いとはいえその一歩手前までしてしまった手前、あまり大きな事は言えないが、あれは同意の上のものではなく、単なる『事故だった』と必死に自分に言い聞かせる。  フェラチオを強要された挙句、俺のモノを――ついでに、咥えただけだ!  強姦まがいな彼の行為を思い出し、一旦は治まった怒りが再びジワジワと湧きあがる。  一発思い切り殴ってやろうかと拳を固めた時、華城のスマートフォンが短く振動した。  長い着信でないところをみるとSNSかメールの類だろう。  面倒くさそうに上着のポケットから取り出す隙を狙って、筋肉質な腕から逃れるように体を離す。  そんな俺に気づいたのかチッと軽く舌打ちして、液晶画面をタップした。  ふっと真顔に戻った彼は、なにやら真剣な表情で何度か指先でスクロールを繰り返しながらその内容を見ていた。  もしかして吉家からの連絡か……と勘ぐった時、華城は腕を伸ばして再び俺の腰を引き寄せた。 「うわっ」  不意の攻撃にバランスを崩し、彼の膝の上に頭を乗せる形で倒れ込んだままホールドされてしまった。  先程、咥えさせられていた彼の長大な熱棒をスラックスの下に感じて、思わず息を呑む。 「――煽るな」 「煽ってなんかない! 離せっ」  声を荒らげて暴れると、彼はそっと俺の耳に口元を寄せて低く甘い声で囁いた。 「――明日には全部片付く。そしたら、お前と繋がってやる」 「な……っ」  カッと顔全体に熱が広がり、俺はおそらく真っ赤になっているであろう顔を見せたくなくて、彼の硬い膝の上に顔を埋めた。そこでまた、彼の雄の部分を間近に感じて、身を強張らせた。  繋がる――とか。どうして、そう露骨な表現を平気で口に出来るのだろう。彼の精神構造を疑う。  普段は寡黙で真面目な男が、どうすればこんな鬼畜でドSに変われるのかと不思議に思う。  いや――むしろ、こちらが本性だと言われた方がしっくりくる。  反動というには少々ギャップが大きすぎる気がして、一体どちらが本当の華城の姿なのか、俺にはまだ分からない。  しかし……華城と出会って二年と少し。彼の、これほどまでに楽しそうな顔を見たことがない。 いろんな仮説を立てるより、普段は別の人格になりすましている――というのが正論なのかもしれない。 「お前……最低っ!」 「――なんとでも言え」  キュッと耳朶を甘噛みされビクンと腰が跳ねる。彼から与えられた濃厚なキスの余韻が残るこの体は快楽に実に忠実で、意図しなくとも「あぁ……っん」とアラレのない声をあげてしまった俺。  たった一度――いや、キスに関しては二度目か。互いの体に触れ合っただけで、呆気なく華城に反応するように作り変えられてしまった俺の体。  記憶の奥底で、前にもそんなことがあった様な気がするのだが、どうしても思い出せずにいる。  想いが通じ合ったからと言って、体の相性がいいとは言い切れない。  そう……繋がってみなければ分からないのだ。  その結果、やはりダメだった――ということもあり得る。少し惜しい気もするが、俺としては相手には完璧を求めたい。  なぜって?――それは、ずっとずっと一緒にいたいからに決まってるだろ。 ***** 翌朝。俺が出社すると、営業のフロアにはすでに華城の姿があった。 フロアの奥にある『打合せ室』という名の書庫から、松島の後に続いて出てきたところで目が合った。 カラオケボックスでの一件で少々気恥しさはあったが、俺はいつもと変わらず女王様(クイーン)を貫いた。 「あ、杉尾さん……」  万人受けする柔らかな笑みを湛えた口元に目を奪われる。この、一見人当たりのいい男が腰砕けになるほどの野獣のようなキスを仕掛けてくることを、社内の者は誰も知らない。 「華城~。コーヒー飲みたいっ」  彼の隣りにいた松島が「またか?」という呆れ顔で俺を見て、そして華城に同情の眼差しを向ける。  華城もまた苦笑いを浮かべ「いつものことです」と小声で呟いてから、松島に軽く会釈するとデスクに戻ってきた。 「おはようございます……」  真面目を絵に描いたような挨拶をした華城は、コーヒーメーカーが置かれているミニキッチンへと足を向けた。  その逞しい背中をぼんやりと見つめ、やっぱりいい男だと見惚れてしまう。  そんな自分を叱咤し、電源を入れ立ち上がったパソコンの画面に目を向ける――が、すぐ横に彼の気配を感じてビクッと肩を震わせた。  マウスに乗せた手が緊張でなぜか汗ばんでいる。 「どうぞ……」 「ん。ありがと」  自分の座席についた彼は椅子を引き寄せる様にして座ると、キャスターを滑らせて俺に近づいてきた。  そして、長身をわずかに屈めて端正な顔を近づけた。 (まさか、こんなところで……するのかっ!)  体を強張らせ、視線だけを真横に向ける。彼が愛用している香水が柔らかく香り、それだけで心臓が跳ねる。 「例の件……全部、部長に話しましたから」  俺だけに聞こえるように囁いた華城は、俺の反応を見て楽しんでいるかのように見える。 「えっ?」  華城の言葉に弾かれるように顔を向けた瞬間、すぐそばにあった彼の鼻先に触れそうになり、仰け反るようにに椅子の背凭れに背中を押し付けた。 「お前っ! それ……近いっ」 「そうですか? こうしないと聞こえないと思って……」 「そ、そうだけど……っ。――物的証拠もないのに。お前は、それでいいのか?」  華城はゆっくりと体を起して椅子に凭れると、ふっと口元を緩めた。  その瞬間、物凄い色気が発せられ、俺はその威力に眩暈を覚えた。 (な、なんだ……この、強烈な色気はっ)  バクバクする心臓に手を押し当てて乱れる呼吸をなんとか整えようと、ネクタイのノットに手をかけて何とか誤魔化した。 「――ご心配なく。証拠と裏付けはすべて揃ってますから。ただ……」 「ただ?」  再び声を潜ませた彼に、俺は自ら顔を近づけた。  人間、誰しも相手が小声で話せば、近くで聞きとろうとするのは当たり前の行動で……。  決して何らかの下心があるわけではない……と、誰に言うでもない言い訳を頭の中で繰り返す。 「証拠品の中に、杉尾さんの夜遊びの証拠も入ってしまっているんですよね……」 「はぁ?!」  その爆弾発言に、俺はここが営業のフロアだという事を忘れて大声をあげて立ち上がった。  朝のミーティング前のフロアには、営業部のほぼ全員が集まっている。  その視線を一気に受け、俺は全身から冷たい汗が噴き出るのを感じた。  気まずい顔で恐る恐る椅子を引き寄せて腰掛けると、脇腹を押さえて肩を揺らしながら笑う華城の姿が目に入り、羞恥が怒りへと変わる。 「お前なぁ……っ。一体、何を部長にバラしたんだよっ」  声を潜めて問いただすと、俯き加減で笑っていた彼がふと上目づかいで俺を見つめた。  黒い瞳の中に獰猛な獣の光を湛え、今にも襲いかかりそうな雰囲気に息を呑んで少し後退した。 「あなたが男と寝たって事実……」 「まさか……お前とっ」  彼は眉間に深い皺を刻み、急にムッとした顔を見せる。  そして、俺の二の腕を掴みグイッと力任せに引き寄せると、耳元に唇を寄せた。 「――まだ、寝てないだろーが。それは……今夜だ」 「ひゃぁ?」 「逃げんなよ。覚悟しとけ……」  わざと耳に息を吹き込むように低い声で囁かれ、突拍子のない変な声が出てしまい、慌てて口元を両手で覆った。  華城にとって、今の俺は『先輩』ではない。どうやら完全に弄られキャラにされてしまったらしい。  でも、俺の一挙一動がこれほど気になることは今までなかった。いろんな表情を見せる彼の魅力に、確実に惹き込まれている自分がいる。  見たこともない笑顔や嫉妬。何より、俺と話す時に見せる楽しそうな顔は、どんな弄りをされた後でも許してしまう威力がある。  他人には無愛想な男だが、俺にだけその本性を見せてくれるっていうのも悪くはない。  目を見開いたまま口を覆ってフリーズした俺に、彼は何事もなかったかのようにすっと立ち上がると、いつもの調子で声をかけた。 「杉尾さん。ミーティング、始まりますよ」  こんな調子で毎日続くのかと思うと、少々気が重い。このままでは、俺のペースは確実にこの男に崩されていく。何とか、形勢逆転のチャンスを狙わなければ……!  ハッと我に返り、それまで止まっていた呼吸にむせ返りながらも急いで立ち上がる。 俺は、ミーティングが行われる松島のデスクへと足を縺れさせながら急いだ。 *****  華城が俺に話した談合のすべて――。  でも、それがほんの一部でしかなかったことは、その日のうちに明らかになった。 当社の専務取締役である中西(なかにし)が同行する形で、松島と共に向かったのは、老人福祉施設に付随するグループホームの発注者であるIサプライの本社だ。 専務の中西の同行に動揺を隠せなかった俺は、彼の見えないところで小さく舌打ちした。  松島だけならまだしも、さすがに中西の前ではいつもの女王様(クイーン)を気取ることは出来ない。  なぜなら、中西は俺の父親である杉尾設計事務所所長、杉尾(すぎお)孝明(たかあき)と大学時代の同窓生なのだ。それ故か、はたまた父親の差し金か――何かと俺の行動にチェックを入れてくる。 実家を出て独り暮らしをし、違う会社で働いていても父親に監視されているようで気が抜けない。  あの人――孝明にどんなことを報告しているか定かではないが、どうせロクなことではないということだけは察しがつく。   『営業部のお荷物』と言われている俺だ。今更、何を言われようと知ったことか!  Iサプライ本社の応接室に通された俺たちは、テーブルを挟んで向かい側に座るIサプライの関係者と対峙した。  簡単な挨拶と名刺の交換を済ませた中西は、早々に話を切り出した。  俺はこの件に関して直接関わってはいないが、相棒である華城の『先輩』という立場で同席を許された。 中西が鞄の中から取り出した資料をテーブルの上に広げる。その、華城が独自に調査したという資料を目にした時、華城騎士という男はやはりタダ者ではないと直感した。  自宅待機中であった一週間の間にどんな手を使ったか知らないが、コピー用紙二十枚以上にも及ぶ報告書には、写真やその時の状況を録音したものを収めたCDが添付されており、証拠品として提出するには完璧ともいえるものだった。 「貴社は民間企業として老人福祉関係の施設運営を数多く手がけていらっしゃるようですが、そのすべての経営状況は決していいとは言えないようですね……。この決算書の推移を見れば一目瞭然ですが……」 「それは……何かの間違いではないでしょうか?」  いかなる時でも直球で攻め込む中西の言葉に、動揺を見せることなく対応したのはIサプライ代表取締役社長だった。決算書の数字を見間違えていないか? とでもいうように指をさして指摘する。 「間違い? あぁ……それですね。一応は黒字決算になっていますが、赤になった分のお金はどこから補てんなさっているのでしょうか? 貴社と売り上げを共有する関連企業はないようですし、互いに補てん出来るような経営方法をとられているわけではないように見受けられるのですが……。報告書によれば、貴社に流れているお金はF不動産専務の早川さんから個人的に融資されているとなっていますが、いかがですか?」  Iサプライの営業部長を始め、専務や社長も顔を揃えた席で何の躊躇いもなく言い放った中西は、この報告書に目を通した後で、再度すべての関連機関に確認・裏付けを取ったようだ。  そうでなければ、ここまで断定した言い方は出来ない。下手をすれば名誉棄損で訴えられてもおかしくない事案だからだ。 何より、あのF不動産の早川がこの件に絡んでいたことに、俺は言葉を失った。  悪質なクレームの件で、彼は華城には完全にやり込められた経緯がある。  その逆恨みがIサプライと結託したものだったとしたら、あまりの幼稚さに呆れて声も出ない。  それだけでなく、Iサプライと早川は個人的に共同経営を結んでいるらしく、そのことについてはF不動産社長、今居も知らなかったようだ。  事あるごとに揉め事を起していた早川には、今居もほとほと呆れており、自分の会社にいつ火の粉が降りかかってくるかとヒヤヒヤしていたらしい。それでもクビにすることが出来ずにいたようで、今回の事で解雇する理由が出来たと内心ではホッとしていたようだ。  真実が明らかにされ、だんだんと暗雲が垂れ込めてきたIサプライの面々に中西は容赦なく続ける。 「――それだけじゃない。今回の入札を利用してK興産に談合を持ちかけたのもあなたたちですよね? 入札参加した他の二社にも口裏を合わせるように指示したと聞いています。当社はコンプライアンスに関しては厳しく対処している企業です。営業の華城に関しても、そのような不正をする人物ではないと認識していましたから、何かの間違いでは? と思ったのは事実です。当社以外のすべてがこの談合に関わっていると分かった今、被害者である当社の信用を、どう回復していただけるのかお伺いしたいところです。幸い、公にはしていないことなのでマスコミなどは気づいてはいませんが、今後もこのようなことが行われるようであれば、出るところに出る所存です。今回は目を瞑る……という言い方はあまりいい言い方ではありませんが、今後の取引の事も考えて、この入札はなかったことにしていただきたい。華城の方もこれ以上問い詰める気はないようですし……」  険しい顔で言い放った中西はテーブルの上の資料を手際よくまとめると、そのまま席を立った。  中西の独壇場となった今回、松島をはじめ俺たちは一言も口を開くことはなかった。当事者である華城も、すべてを中西に委ねていたようだ。  ここ数年、建設業界は不景気の煽りを受けて受注競争に拍車がかかっている。受注のためなら、多少手荒いことをしても許されるという風潮が一部の企業に浸透しているとは聞いていた。  K興産もここ数年、受注苦に悩まされていたようだ。同一地域に乱立する建設会社を蹴落として大口の案件を受注することはかなり難しい。  しかも、評判もあまりよくない上に、見積内訳書の内容にも辻褄が合わない点が多く指摘されていたK興産。  地域の人々からの支持が会社を存続させる原動力になることを、改めて気づかされた。  毎回、面倒だと思っていた地域ボランティアや清掃活動。一つ一つは小さな活動ではあるが、それがいつか大きな評価となって後押ししてくれる。  F不動産も然り――だ。サービスを提供する企業が、早川のような性悪役員を置くことは何に於いてもリスクが伴う。しかも、個人的とはいえIサプライと提携し、F不動産で水増しして得た利益を流していたというのだから聞いて呆れる。  遅かれ早かれ、早川は社長である今居からクビを言い渡される予定だった。それが今回の件で、今居も心置きなくクビを宣告できることに胸を撫でおろしているだろう。  早々にIサプライを後にした俺たちは、他の関連企業すべてに足を運んだ。  その中でもK興産ほど居心地の悪かった場所はなかった。  俺と対峙するようにテーブルを挟んで正面に座った吉家はその間中、恨めしそうにずっと睨んでいた。  華城がバーで彼と交わした会話の一部始終をK興産役員の面々の前で公表され、俺もさることながら、彼もまた白い顔をさらに青白くした。  吉家と今回関与したK興産役員の処分に関しては第三者機関の介入を含め、社内で検討するらしい。  そして、俺が遊びで付き合った一夜限りの男――笹島。  彼が吉家の知り合いであり、盗撮されたデータをバラ撒くという脅迫まがいの取引条件にやむなく応じた華城……。  早川の逆恨みといい、吉家との痴情のもつれといい、俺への当てつけといい、そのほとんどが個人的なことだ。  それを企業まで巻き込んだ『談合』騒ぎに発展したことに憤りを感じずにはいられない。  そのおかげで俺は、知られたくもない性癖から、超プライベートなことまで、松島と……こともあろうに専務である中西にまで露呈しなければならなくなったのだ。  巻き込まれた華城よりも、俺の方がはるかに被害者だ!  帰りの車の中で、隣りに座った中西が俺の耳元で小声で言った。 「この事は杉尾には黙っているから安心していい。だが……いい加減、夜遊びは自粛したまえ」  その言葉をどこまで信じていいものか不安ばかりが募っていく。  こんな事を父や兄に知られたら、またバカにされるのは目に見えている。  俯いたまま、わずかに頷いた俺に、ハンドルを握っていた華城がルームミラー越しに言った。 「――中西専務。杉尾先輩の相棒として、俺が責任を持って更生させますので……」 「そうか。華城くんのような相棒を持って良かったなぁ……」  華城の心強い言葉に安心したのか、満足そうに笑みを浮かべた中西に、俺は奥歯をギリリと噛みしめた。 (余計なこと、言いやがって……)  華城騎士――お前はどこまで外ヅラがいい男なんだっ。  いっそのことお前の正体をバラしてやろうか……と、恨みがましく上目づかいでミラーを睨みつけた時、彼がふっと口角をあげて微笑んだ気がして、俺の怒りはその微笑に呆気なく撃ち落とされた。 (その顔――やめろ。勃ち……そうだっ)

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