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第5章:生意気な後輩――③
***
ドラックストアは会社から歩いて数分の場所にあり、それはちょうど会社と駅の中間点だった。
「悪いな。練習の邪魔をして」
有坂の機嫌を何とかすべく、謝るところからはじめてみる。
「別に。兵藤さんが入ってきた時点で、集中力が切れちゃいましたから。あのまま練習しても、どうせ無駄でしょうし」
(うわぁ、超最悪やんけ。どないしょう!?)
「それは……ほんまに済まんかった。お詫びに晩飯奢るわ」
「そこまでしなくてもいいですよ。集中力が足りないのは、俺自身の精神修練のなさからきているだけですので」
「いやいや、今回のお詫びもやけどその……。もう少し有坂と、いろんなことを喋ってみたいなと思ったりもしたんや。これは俺のワガママだし、先輩として奢らしてくれ!」
必死になって食いつく兵藤を横目で見て、小さなため息をついた有坂。ずっとぶーたれたままの顔色を窺いながら、重たい口を開く。
「……今だってこうして、買い物に付き合ってくれてるんやし。大事な時間をとらせて、ほんまに済まん」
その場に立ち止まって、ぺこりと頭を下げた。
「止めて下さいよ、そういうの。断ることだってできるものなのに、俺が気になったから付き合ってるだけです」
「でも……」
「止ったままでいたらお腹が空き過ぎて、途中で帰るかもしれませんよ」
それって――。
「兵藤さんが何を奢ってくれるのか楽しみにしていますので、早く行きませんか」
若干、投げやりな感じで言い放ちつつも、ドラックストアに向かっていく有坂の背中がどこか楽しそうに見えるのは、気のせいなんかじゃない。
有坂の態度にいちいち一喜一憂して翻弄されつつも、嬉しさを噛みしめながら慌てて後を追いかけて並んで歩いた。兵藤の口元がニヤけそうになるのを、必死になって隠すことに苦労したのは、言うまでもない。
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