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第2章:魅惑的な先輩――2

 睨み倒してくる視線に恐れおののきながらも、間近で捉えた兵藤の容姿を素直に羨ましく思った。  茶色がかったまっすぐで長めの前髪の下にある、男のくせにやけに長い睫毛と、切れ長のぱっちり二重瞼をした瞳が印象的に映った。  他にも、オレンジとピンクの中間色といえばいいのだろうか。綺麗な色の唇にも目が留まる。薄すぎず厚すぎずのそれは、口紅のCMに出てきてもおかしくないくらい、それはそれは綺麗なものだと感じた。  そんな感想をこっそりと心の中で考えていたら、吹き出すような笑い声が耳に聞こえてきた。それに導かれるように顔を上げたら、兵藤がふわりと瞳を細めて、有坂を見つめる。 (笑うと印象的な瞳がなくなって、すごく柔らかい雰囲気になるんだな、この人――イケメンというよりも美形、グッドルッキングと表現した方が似合ってるかもしれない) 「今年の新人、何だか面白そうだから、俺が貧乏くじを引いてあげますか。その代わり通常業務の緩和、ぜひともよろしくお願いしますよ大平課長」  胸の前で腕を組み、苦笑しながら新人を見る兵藤の顔に、有坂は微妙な感情を読まれないようにすべく、真面目な顔を作りこむ。あからさまに『しょうがねぇなぁ』という表情を浮かべているカッコイイ顔を、何とかしてもっと困らせて、ここぞとばかりに歪ませてやりたいかも。なんて思ってる劣等感に苛まれた自分を、必死になって隠した。 「仕事のできる兵藤くんから、新人としていろんなことを学んでね」  緊張で固まる新人の肩を宥めるようにそれぞれ叩き、大平課長は奥にある自分のデスクに行ってしまった。 「あのぅ、つかぬことをお訊ねしたいんですけど」  去って行く大平課長の背中をぼんやりと眺めていたら、隣にいる青山が唐突に口を開いた。  新人として仕事で積極的に頑張るぞというところを、しっかりとアピールするためなのかもしれないと考えつき、有坂は内心焦った。会計課に来てからの質問なんて、まったく頭に浮かんでいない。 「何だ、遠慮なく言ってくれ」

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