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第9章:優しい先輩2
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「有坂……」
俺のセリフを最後まで聞かずに、逃げるように部署から出て行った有坂の背中を見送った。最低なやり取りを垣間見た職場のメンバーから『ご愁傷さま』という感じの視線を送られたのを、肌でひしひしと感じ取る。
俺のせいで、アイツが奇異な目で見られたり、噂されたりするのがかわいそうになったからこそ、声をかけたというのに、それすらもウザいと言わんばかりの態度を取られてしまったことに、戸惑いを隠すことができない。
しょんぼりしながらデスクに向かい合うと、大平課長が傍にやって来る。
「兵藤くん、随分と有坂くんに気を遣っているみたいだね」
「それは俺のせいで、その……」
どうにも大平課長の顔を見ることができなくて、書類の置かれたデスクの上を漫然と眺めてしまった。
「自分が言われて嫌だったことを、有坂くんが言われたら、ああやって庇いたくなるよな」
「大平課長!」
勢いよく頭を上げて、大平課長のことを見上げた。俺の気持ちを代弁してくれたことに、涙が出そうになる。
「だけどね、気にしすぎもよくないよ。有坂くんはああ見えて、結構芯が強いみたいだから、ちょっとやそっとじゃ、挫けなさそうなタイプだと僕は思うな」
「そうなんですか?」
「それに比べて、兵藤くんは繊細だからね。なんだかふたりは、見た目と中身が逆みたいだな。案外そこで、バランスがとれているみたい」
宥めるように俺の肩をぽんぽん叩く大平課長は、優しく瞳を細めて俺の顔を見つめる。
「植物はね、水をあげすぎると根腐れをおこしてしまうんだ。手をかけすぎると弱くなってしまうってこと。それは人も同じなんだよ」
「はい……」
「有坂くんを信じて、仕事をまかせることも先輩としての務めだと思って、やってみてください。いいね?」
誰にでもわかるたとえ話をしたと思ったら、あっさり目の前から去って行く大平課長。頼りがいのあるその姿を見てるだけで、もっと話が聞きたくなり、縋りつきたくなった。
「有坂を信じてみる。心配だけど、やってみるか……」
大平課長からのアドバイスどおりに実践してみようと、気合いを入れ直し、手をつけている仕事に、ふたたび着手したのだった。
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