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01 権藤拓哉、本店就任
権藤拓哉、27歳。キャリア故24歳ですでに警部に昇進。上が詰まっていなければ、一足飛びにどこぞで署長をやっていてもおかしくない素質を持っていると自負している。が、やはり若さゆえ現場には慣れていない。それは認めよう。しかし、ノンキャリア、いわゆる大学を出ることもできなかった者たちが、考えもせず走り待っていることが褒められたものだとは思えないし、生産的ではない。
刑事ドラマのように外を歩けば殺人事件に出くわし、捜査会議をやっては迅速に犯人逮捕のために走り回っているなんてイメージがあるだろうが、実際、警察組織ほどデスクワークが多い仕事はないと思う。人数合わせでたまに借り出されガザに参加したり、交通事故の処理や証拠品の押収なんかでも呼ばれたり、外へ出るのはその程度だ。事件が起こっても、証拠集めに一ヶ月かかったとしても倍以上の時間をかけて書類作成をする。キャリアが必要な理由はそこにあるのではないかと思うくらい、デスクワークが中心だ。
故に、現場経験はなくとも、犯人と証拠と現状とアリバイがあれば犯人の動機も、自分にはわかるので、無駄な操作に明け暮れる諸君を痛々しく思いながら、誰よりも早く書類処理できる能力を忌憚なく発揮している。
地方(と言っても都内の下町だが)で暫く温存して、ようやくこの春、警視庁組織犯罪対策第四課に配属された。四課は数多の暴力事件のほか、広域暴力団対策係も締めているので、自分のような有能な人材が求められる最たる部署だ。と思っていたが、実際は2週間くらい風呂に入らないことを自慢する自称猛者実情獣ぞろいで少々衝撃を受けた。自称猛者実情獣どもは会議や情報整理に顔を出すくらいでほぼ外出中だ。ぞれぞれが別の組織を洗っていて、なにを追っているのか、途中参加の自分に説明がない。これでは効率が悪いと主任に進言したが、過去の書類整理のついでにデータ化しろと山ほど無駄な作業を命じられた。
どうせね、ノンキャリアの方々では、情報が膨大すぎて他人に説明するというスキルがないのでしょうよ、わかっているからこそ、反論もせずに命令に従って、データ化とともに、書類の山を少しずつ崩す毎日だ。本店も大して変わらないものだ。
パソコンに向かってひたすら作業をしていると、なにやら隣の島があわただしくなってきた。隣は銃器薬物対策など幅広くというより、切っても切れない二つのブツを追う第五課だ。こちらはかなりの大所帯だ。自分の机に積まれたものよりも高い書類の山が、それぞれの机の上にあり、行き交う人の顔を覚えるのは難しいが、ここのところ徐々に人数が集まってきていた。今日はおそらく最大人数が集まっているのではないかと思う。ホワイトボード周辺に集まっていた。これから会議でも始めるのだろうか。
ふと、目を奪われて手を止めた。その男が入ってきただけで、部屋の空気が変わった気がした。入口から音もたてずに入ってきた男は、まるで周囲2メートル内をイオン洗浄されているような視界の美しさだ。オーラが見えるとしたらこういうことだろうか、手の書類を弾き、一歩踏み出すだけで、その周辺だけ露光がプラスになり、そっけない背景が白飛びしそうな眩しさだ。。神々しい程に目映い。おろしたてのようにパリッとしたスーツにメガネ。書類に目を通しながら通路を横切り、五課の群れの方へ歩いていく。
ようやく――見つけた。
彼こそ、簑島渉だ。
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