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前編

 利平(りへい)に手をつないで貰うのが、俺は好きだったし安心出来た。それを利平も知っていてくれて、だから俺が手を差し出すと躊躇なく手をつないでくれた。  ……だけど、今。  もう、おれからは絶対に、利平には手を伸ばせない。  だからもう、おれは利平に触れられない。 ※  俺――中津川利平(なかつがわりへい)が今の高校に入学したのは、大学進学の為だ。近くにある高校の中で一番、希望の国公立大学への進学率が高かったからである。  そして俺は頑張って勉強し、その進学率を支えている特進クラスに入ることが出来た。  男子校なのは、流石に解っていた。だけど特進クラスではあまり見ない(勉強第一なので)が、普通科では同性との『お付き合い』がまかり通っていることに驚いた。一年経つと、流石に慣れた――と言うか、男同士でくっついているのを、いちいち二度見することはなくなったが。  でも、あいつ――笠間伊吹(かざまいぶき)に対してだけは、違う。 「アイツ、相変わらず目立つよな」 「見る度に相手、違わねぇ?」 「いくら可愛くても、俺は男はナイけどなー」  体育の授業に行く途中で、俺は上級生らしい相手の腕にくっついて歩く伊吹を見かけた。格好は、利平と同じブレザーの制服だ。けれど、それ以外はまるで違う。  柔らかそうな髪。目もまつ毛も、色素の薄い茶色で――中性的な容姿もあり、確かに同級生の言う通り目立つ。あと彼は、特定の相手と付き合わない代わりに、どんな相手に誘われても断らないらしく、悪い意味でも目立っている。  ……とは言え、俺が伊吹を見かける度に目で追うのは別の理由だ。 (アイツ、また調子悪そうだけど……大丈夫か?)  元々、色は白いがよく見ると唇の色が悪い。あとニコニコ笑っているが、時たま辛そうに目を伏せている。 (ああなって、無理すると寝込むんだよな……特に病弱とかじゃないんだけど色々、ため込むからな)  子供の頃、何度も見たから間違いないと思う。  小学校四年生の時に、伊吹の家が引越して疎遠になったが――それまでは、隣の家に住む幼なじみだったのだ。

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